財に臨みては苟くも得んとすること母れの読み方
ざいにのぞみてはいやしくもえんとすることなかれ
財に臨みては苟くも得んとすること母れの意味
このことわざは、お金に関わる場面では、不正な手段や安易な方法で利益を得ようとしてはならないという教えを表しています。目の前に金銭を得る機会があったとしても、道徳に反する方法や人を欺くような手段を使ってはいけないという、強い戒めの言葉です。
ビジネスの場面で不正な取引を持ちかけられたとき、困窮しているときに楽な儲け話が舞い込んだとき、あるいは誰も見ていないからと不当な利益を得られる状況に直面したときなど、人の良心が試される瞬間に思い出すべき言葉です。
現代社会では、詐欺や横領、脱税、インサイダー取引など、様々な形で不正に財を得ようとする誘惑があります。しかし、このことわざは、一時的な利益よりも、正しい道を歩むことの大切さを教えています。正当な方法で得た財産こそが、真の意味で自分のものであり、心の平安をもたらすのです。
由来・語源
このことわざは、中国の古典である「論語」の一節に由来すると考えられています。「論語」は孔子とその弟子たちの言行を記録した書物で、日本には古くから伝わり、武士や知識人の教養の基礎となってきました。
原文では「子曰く、富と貴とは是れ人の欲する所なり。其の道を以てせざれば、之に処らず。貧と賤とは是れ人の悪む所なり。其の道を以てせざれば、之を去らず」という教えがあり、この精神が日本で様々な形で表現されてきました。「財に臨みては苟くも得んとすること母れ」もその一つと言えるでしょう。
「苟くも」という言葉は、「いい加減に」「安易に」という意味を持つ古語です。「母れ」は「なかれ」と読み、禁止を表す古い表現です。つまり、お金を目の前にしても、安易な方法や不正な手段で手に入れようとしてはならない、という強い戒めを表しています。
儒教思想では、富を得ること自体は否定されていませんが、その手段が正しくなければ意味がないと説かれています。この考え方が日本の商人道や武士道にも影響を与え、「正しい道で得た富こそ価値がある」という価値観として根付いていったと考えられます。
使用例
- あの投資話は儲かりそうだったが、財に臨みては苟くも得んとすること母れという言葉を思い出して断った
- 経理担当として財に臨みては苟くも得んとすること母れを座右の銘にしている
普遍的知恵
人間とお金の関係は、古今東西を問わず、最も人の本性が現れる場面です。このことわざが何百年も語り継がれてきたのは、お金を目の前にしたときの人間の弱さを、先人たちが深く理解していたからでしょう。
お金には不思議な力があります。それは人を豊かにする力であると同時に、人の心を狂わせる力でもあります。普段は誠実な人でも、大金を前にすると判断力が鈍り、「これくらいなら」「誰にもバレないから」と自分に言い訳をしてしまう。そんな人間の弱さを、このことわざは見抜いています。
興味深いのは、このことわざが「お金を得てはいけない」とは言っていない点です。財を得ること自体は否定されていません。問題は「どのように得るか」なのです。これは人間の欲望を否定するのではなく、欲望との正しい付き合い方を教える知恵だと言えます。
また、このことわざには「見ている人がいなくても正しくあれ」という深いメッセージが込められています。不正は必ずしも法律に触れるとは限りません。グレーゾーンでの判断こそが、その人の真の品格を表すのです。先人たちは、人は自分の良心に対して誠実であるべきだと説いていたのでしょう。
AIが聞いたら
目先の利益を取らない方が結局は得をする。これはゲーム理論の実験で数学的に証明されています。
政治学者ロバート・アクセルロッドが行った有名な実験があります。コンピュータプログラム同士を対戦させて、どの戦略が最も多くの得点を稼ぐかを競わせました。一回限りの対戦なら相手を裏切る方が得です。たとえば協力すれば互いに3点、裏切れば自分だけ5点もらえて相手は0点という設定です。しかし何百回も繰り返し対戦する場合、最も成功したのは意外にも最もシンプルな戦略でした。
それが「しっぺ返し戦略」です。基本は協力、相手が裏切ったら次は裏切り返す、でも相手が協力に戻ればすぐ許す。この戦略は複雑な裏切りプログラムたちを抑えて優勝しました。計算すると、毎回裏切る戦略は短期では1回あたり5点稼げますが、相手も裏切り返すので長期的には互いに1点ずつしか得られません。一方、協力を基本とする戦略同士なら毎回3点ずつ獲得できます。
つまり「安易に利益を求めない」姿勢は、実は確率論的に最も利益を最大化する選択なのです。人間関係も仕事も反復ゲームです。一度の裏切りで得る5点より、信頼関係を保って毎回3点を積み重ねる方が、トータルでは圧倒的に大きな数字になります。
現代人に教えること
このことわざが現代のあなたに教えてくれるのは、人生における本当の豊かさとは何かということです。SNSで一攫千金の話が溢れ、簡単に稼げる方法が宣伝される時代だからこそ、この言葉の価値は増しています。
大切なのは、短期的な損得ではなく、長期的な視点を持つことです。不正な方法で得たお金は、いつか必ず代償を払うことになります。それは法的な罰だけでなく、自分自身への信頼を失うという、もっと大きな代償かもしれません。朝、鏡の中の自分を見たとき、胸を張れる生き方をしているかどうか。それが人生の質を決めるのです。
また、このことわざは「待つ力」の大切さも教えています。正当な方法は時間がかかるかもしれません。でも、その過程で得られる経験、築かれる信頼、磨かれる技術こそが、あなたの真の財産になります。急がば回れという言葉があるように、正しい道こそが実は最も確実な道なのです。
あなたの選択一つひとつが、あなた自身を作っていきます。お金に関わる判断を迫られたとき、この言葉を思い出してください。それがあなたの人生を守る羅針盤になるはずです。


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