役人多くして事絶えずの意味・由来・使い方|日本のことわざ解説

ことわざ

役人多くして事絶えずの読み方

やくにんおおくしてことたえず

役人多くして事絶えずの意味

このことわざは「管理する人や指導的立場の人が多すぎると、かえって問題やトラブルが次々と発生してしまう」という意味です。

組織において適切な管理体制は必要ですが、管理職や責任者が多すぎると、それぞれが異なる方針を打ち出したり、権限の範囲で対立したりして、むしろ混乱を招いてしまうという状況を表しています。また、役職者が増えることで意思決定のプロセスが複雑になり、簡単に解決できるはずの問題も長引いてしまうことがあります。

このことわざを使う場面は、会社や団体で管理職が多すぎて統制が取れていない時、委員会やプロジェクトでリーダー格の人が多すぎて方向性が定まらない時などです。「船頭多くして船山に上る」と似た意味を持ちますが、こちらは特に「問題が絶えない」という継続的な混乱状態に焦点を当てています。現代でも企業の組織改革や行政改革の文脈でよく引用される、組織運営の本質を突いた教訓なのです。

由来・語源

「役人多くして事絶えず」は、中国の古典に由来することわざです。この言葉の「役人」は現代の公務員という意味ではなく、古代中国における官僚や役職者を指しています。「事絶えず」の「事」は「問題」や「トラブル」を意味し、「絶えず」は「途切れることなく続く」という意味です。

このことわざが生まれた背景には、古代中国の官僚制度の問題があります。皇帝を頂点とする巨大な官僚機構では、多くの役人が複雑な階層を作り、それぞれが自分の権限や利益を守ろうとしていました。役人の数が増えれば増えるほど、縄張り争いや権力闘争が激化し、本来の政治や行政がおろそかになってしまうという現象が見られたのです。

日本には中国の古典とともに伝来し、平安時代頃から使われるようになったと考えられています。日本でも朝廷の官僚制度が発達する中で、同様の問題が生じていたため、このことわざは深く理解され、定着していきました。特に江戸時代には武士階級が官僚化する中で、この言葉の意味がより身近に感じられるようになったでしょう。現代まで受け継がれているのは、組織運営の普遍的な問題を的確に表現しているからなのです。

豆知識

このことわざの「役人」という言葉は、現代では公務員を指すことが多いですが、元々は「役目を持つ人」という広い意味でした。江戸時代には商家の番頭や職人の親方なども「役人」と呼ばれることがあったそうです。

興味深いことに、このことわざは現代の経営学でいう「管理スパンの原則」と同じ概念を、数百年も前から表現していたことになります。一人の管理者が効率的に管理できる部下の数には限界があるという現代的な組織論が、古代中国の知恵として既に存在していたのですね。

使用例

  • うちの部署は課長が3人もいるから、役人多くして事絶えずで毎日何かしら問題が起きている
  • 町内会の役員を増やしたら、役人多くして事絶えずの状態になってしまった

現代的解釈

現代社会では、このことわざの意味がより複雑で深刻な問題として現れています。特に大企業や政府機関では、組織の巨大化とともに中間管理職が増え続け、意思決定の遅延や責任の所在不明といった問題が深刻化しています。

IT業界では「プロジェクトマネージャーが多すぎて開発が進まない」という現象がよく見られます。デジタル化が進む中で、従来の階層的な組織構造では迅速な対応が困難になり、フラットな組織への転換が求められています。スタートアップ企業が大企業より機動力があるのも、この「役人多くして事絶えず」の逆を行っているからでしょう。

一方で、現代では「役人」の概念も変化しています。SNSの普及により、誰もが情報発信者となり、意見リーダーが乱立する状況が生まれています。オンラインコミュニティでも、管理者やモデレーターが多すぎると方針が統一されず、混乱が生じることがあります。

また、リモートワークの普及により、従来の管理手法が通用しなくなり、「管理のための管理」が増えているという指摘もあります。会議のための会議、報告のための報告が増え、本来の業務効率が下がるという現象は、まさにこのことわざが警告していた状況そのものです。現代こそ、このことわざの教訓を活かした組織運営が求められているのかもしれません。

AIが聞いたら

「役人多くして事絶えず」と現代の生産性のパラドックスは、驚くほど同じ構造を持っている。

江戸時代の役人増加パターンはこうだ。役人が増える→新しい部署ができる→部署間の調整が必要になる→調整役の役人がさらに必要になる。つまり、問題を解決するために投入した人員が、新たな問題を生み出す無限ループだ。

現代のIT化も全く同じ構造を示している。業務効率化のためにシステムを導入する→システム管理者が必要になる→部署ごとに異なるシステムを使い始める→システム間の連携会議が増える→会議の資料作成や報告書作成の業務が爆発的に増える。

マッキンゼー社の調査では、管理職の平均会議時間は1990年代の週8時間から、現在は週23時間に増加している。デジタル化が進むほど、なぜか人間の作業は減らないのだ。

この現象の核心は「複雑性の自己増殖」にある。効率化のために導入した仕組みが、それ自体を管理する新しい仕組みを必要とし、さらにその仕組み同士を調整する別の仕組みが生まれる。

江戸時代の人々が見抜いていたのは、組織が大きくなると「組織を維持すること自体」が主要な仕事になってしまうという人間社会の根本的な性質だった。300年前の洞察が、AI時代の今も的中し続けている。

現代人に教えること

このことわざが現代人に教えてくれるのは、「シンプルな組織こそが強い」という普遍的な真理です。私たちは問題が起きると、つい管理を強化したり、責任者を増やしたりしがちですが、実はその逆のアプローチが効果的な場合が多いのです。

現代社会では、家庭でも職場でも、この教訓を活かすことができます。例えば、家族の役割分担では「お母さんも管理、お父さんも管理」ではなく、明確に責任を分けることで無用な衝突を避けられます。職場では、プロジェクトのリーダーを一人に絞り、他の人はサポートに回ることで、スムーズな進行が期待できるでしょう。

大切なのは「誰が責任者なのか」を明確にすることです。みんなが責任者だと、結局誰も責任を取らない状況になりがちです。また、組織を作る時は「本当にその役職が必要なのか」を常に問い直す姿勢も重要ですね。

このことわざは、効率性だけでなく、人間関係の調和についても教えてくれています。お互いを尊重しながら、適切な役割分担を心がけることで、みんなが気持ちよく協力できる環境を作ることができるのです。

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