高きに登るは必ず低きよりすの意味・由来・使い方|日本のことわざ解説

ことわざ

高きに登るは必ず低きよりすの読み方

たかきにのぼるはかならずひくきよりす

高きに登るは必ず低きよりすの意味

このことわざは、高い地位や大きな成果を得るためには、必ず基礎から段階的に積み上げていく必要があるという教えです。どんなに優れた才能を持つ人でも、いきなり頂点に立つことはできません。地道な努力を重ね、一つひとつの段階をしっかりと踏んでいくことが、最終的な成功への唯一の道だと説いています。

このことわざは、焦って近道を探そうとする人や、基礎をおろそかにして高度なことに挑もうとする人への戒めとして使われます。また、今は低い位置にいても、着実に努力を続けていけば必ず高みに到達できるという励ましの意味も込められています。現代でも、学問やスポーツ、ビジネスなど、あらゆる分野で基礎の重要性を説く際に引用される普遍的な知恵です。

由来・語源

このことわざは、中国の古典思想に由来すると考えられています。特に『礼記』という儒教の経典に見られる「君子は必ず其の独りを慎む」という段階的な修養の思想や、『荀子』に記された「不積跬歩、無以至千里(一歩一歩を積まなければ、千里の道には至れない)」という教えと深く関連していると言われています。

「高き」と「低き」という対比的な表現は、中国古典における陰陽思想の影響を受けているとも考えられます。物事には必ず順序があり、高いところへ到達するためには低いところから始めなければならないという自然の摂理を、人間の成長や学問の道に重ね合わせた表現です。

日本には遣唐使や禅僧を通じて儒教思想が伝わり、江戸時代には武士階級の教養として広く学ばれました。このことわざも、そうした漢学の素養を持つ人々の間で使われるようになったと推測されます。山を登る際に必ず麓から始めるという日常的な経験と結びつき、日本人の感覚にも自然に受け入れられたのでしょう。

言葉の構造自体が教訓を含んでおり、「必ず」という強い断定が、この原則に例外がないことを示しています。

使用例

  • プログラミングを学ぶなら、高きに登るは必ず低きよりすで、まずは基本構文からしっかり身につけないとね
  • 彼女が今トップ営業マンなのは、新人時代に誰よりも基礎を大切にしたからだ、高きに登るは必ず低きよりすを体現している

普遍的知恵

人間には、努力の過程を飛ばして結果だけを手に入れたいという欲望が常にあります。成功者の輝かしい姿を見ると、そこに至るまでの地道な積み重ねが見えなくなってしまうのです。このことわざが何百年も語り継がれてきたのは、まさにこの人間の性質を見抜いているからでしょう。

私たちは本能的に効率を求め、最短距離で目標に到達しようとします。しかし、自然界を見れば分かるように、すべての成長には時間と段階が必要です。種から芽が出て、茎が伸び、葉が茂り、やがて花が咲く。この順序を飛ばすことはできません。人間の成長も同じなのです。

このことわざが示す深い洞察は、基礎の大切さだけではありません。低いところから始めることの価値そのものを教えています。基礎を学ぶ過程で得られる経験、失敗から学ぶ教訓、小さな成功の積み重ねがもたらす自信。これらすべてが、高みに立ったときの安定感を生み出します。

先人たちは、真の実力とは表面的な知識や技術ではなく、その土台にある深い理解と経験の蓄積だと知っていました。だからこそ、この教えは時代を超えて私たちの心に響き続けるのです。

AIが聞いたら

人間の脳が新しい知識を記憶する時、実は情報を圧縮して保存しています。たとえば「犬」という概念を学ぶ時、最初は「四本足」「毛がある」「吠える」といった単純な特徴を個別に記憶します。次第にこれらのパターンが統合され、「犬」という一つの圧縮されたラベルで呼び出せるようになります。この圧縮プロセスには、必ず単純なパターンの蓄積が必要です。

情報理論では、複雑なデータを効率的に記述するには、まず基本的なパターンを辞書として持つ必要があると証明されています。つまり九九を知らずに微積分を理解しようとすると、脳は毎回「2×3=6」から計算し直さなければならず、処理コストが膨大になります。基礎知識という圧縮辞書がないと、思考の計算量が指数関数的に増加してしまうのです。

興味深いのは、AIの学習でも同じ現象が起きることです。深層学習では、下層のニューラルネットワークが単純な線や色を認識し、上層がそれを組み合わせて複雑な物体を認識します。この階層構造を飛ばして訓練すると、学習が収束しないか、極端に時間がかかります。

つまり段階的学習は効率的な方法論ではなく、情報を圧縮して扱う全てのシステムに課された物理的制約なのです。基礎を飛ばすと脳の記憶容量と処理速度が追いつかなくなります。

現代人に教えること

現代社会は即効性を求めます。短期間で結果を出すことが評価され、じっくりと基礎を固める時間は無駄だと思われがちです。しかし、このことわざは今こそ私たちに必要な教えではないでしょうか。

あなたが何かを始めようとするとき、周りの人がすでに高いレベルにいることに焦りを感じるかもしれません。でも思い出してください。その人たちも必ず低いところから始めたのです。今のあなたの位置は、恥ずかしいものでも劣っているものでもありません。それは成長への出発点なのです。

基礎を学ぶ時間を大切にしてください。退屈に感じることもあるでしょう。でもその一つひとつが、あなたを支える確かな土台になります。急いで高みを目指すより、今いる場所でしっかりと根を張ることが、結果的には最も早く、そして最も確実に目標へと導いてくれます。

低いところから始めることを恐れないでください。むしろそれは、あなたがこれから登っていく高みの大きさを示しているのですから。

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