大軍の後には必ず凶年ありの意味・由来・使い方|日本のことわざ解説

ことわざ

大軍の後には必ず凶年ありの読み方

たいぐんのあとにはかならずきょうねんあり

大軍の後には必ず凶年ありの意味

このことわざは、大きな戦争の後には必ず不作や災難の年が続くという意味です。戦争によって農地は荒廃し、働き手は失われ、社会の生産基盤そのものが破壊されます。その結果、戦争が終わった後も、食糧不足や経済的困窮が長く続くという現実を表しています。

このことわざを使うのは、戦争の真のコストを理解させたいときです。戦場での勝敗だけでなく、その後に訪れる長い苦難の時期まで見据えなければならないという警告なのです。現代でも、紛争後の復興がいかに困難であるかを考えれば、この言葉の持つ重みが理解できるでしょう。戦争は終わっても、その傷跡は何年も、時には何世代にもわたって人々を苦しめ続けます。

由来・語源

このことわざの明確な出典については諸説ありますが、中国の古典思想、特に老子の『道徳経』の影響を受けていると考えられています。老子は「兵は不祥の器なり」として、戦争が天地の理に反する行為であることを説きました。

言葉の構成を見ると、「大軍」は大規模な軍事行動を、「凶年」は凶作や災難の年を意味します。古代中国では、戦争と自然災害の関係が深く観察されていました。大軍を動かすには膨大な人員と物資が必要です。農民は戦場に駆り出され、田畑は荒れ果てます。軍馬のための飼料、兵士のための食糧、武器製造のための資源。これらすべてが国土から奪われていくのです。

さらに、戦場となった土地は焼かれ、井戸は埋められ、作物は踏み荒らされます。戦争が終わっても、すぐに農業生産が回復するわけではありません。働き手を失った村々では、次の年の種まきさえままならないこともあったでしょう。

このことわざは、単なる観察以上の意味を持っています。それは戦争という人為的な破壊が、必然的に自然の摂理を乱し、その報いとして不作や災難を招くという、因果応報の思想を含んでいると言えるでしょう。

豆知識

歴史を振り返ると、このことわざの正しさは何度も証明されてきました。日本でも戦国時代の長い戦乱の後、各地で深刻な飢饉が発生しました。戦争で田畑が荒らされただけでなく、灌漑施設が破壊され、農業技術を持つ人々が失われたことが、その後の食糧危機を深刻化させたのです。

興味深いのは、古代中国の兵法書『孫子』でも、長期戦の危険性が繰り返し説かれていることです。戦争の長期化は国力を消耗させ、たとえ勝利しても国が疲弊してしまうという認識は、東アジアの軍事思想に深く根付いていました。

使用例

  • あの紛争は終結したけれど、大軍の後には必ず凶年ありで、復興には何年もかかるだろうね
  • 歴史を見れば大軍の後には必ず凶年ありというように、戦争の本当の代償は戦後に現れるものだ

普遍的知恵

このことわざが語り継がれてきたのは、人間が持つ短絡的な思考への深い洞察があるからです。私たちは目の前の勝利や解決を求めるあまり、その先に待ち受ける長い苦難を見落としがちです。戦争という極端な例を通して、このことわざは人間の本質的な弱点を突いているのです。

人は感情が高ぶると、行動の結果を冷静に計算できなくなります。怒りや恐怖、あるいは正義感に駆られて、大きな力を動員してしまう。しかし、大きな力を使えば使うほど、その反動も大きくなるという自然の摂理があります。これは物理法則だけでなく、社会や経済、そして人間関係においても同じです。

このことわざが示しているのは、因果の連鎖です。一つの大きな行動は、必ず長い影響を及ぼします。戦争が終わっても平和はすぐには訪れません。破壊されたものを再建し、失われた信頼を取り戻し、傷ついた心を癒すには、破壊にかかった時間の何倍もの時間が必要なのです。

先人たちは、この単純だが忘れられがちな真理を、短い言葉に凝縮しました。力の行使には必ず代償が伴う。そしてその代償は、しばしば当初の目的を上回るほど大きいのだと。

AIが聞いたら

大軍を動かすには、膨大なエネルギーを一点に集中させる必要があります。兵士を訓練し、武器を整え、統率のとれた組織を作る。これは熱力学で言う「低エントロピー状態」、つまり高度に秩序だった状態です。しかし熱力学第二法則が教えるのは、ある場所で秩序を作り出すには、必ずその代償として別の場所で無秩序が増大するということです。

具体的に見てみましょう。10万人の軍隊が1年間活動するには、最低でも数千トンの食料が必要です。これを調達すれば、周辺地域の農作物は根こそぎ奪われます。さらに軍隊の移動は道路を荒らし、野営は森林を伐採し、戦闘は田畑を踏み荒らします。つまり軍という「高度な秩序」を維持するために、周辺環境という「エネルギー源」から大量の資源を吸い上げ、その地域を無秩序な状態、すなわち凶年へと追い込むのです。

これは冷蔵庫の仕組みと同じです。冷蔵庫の中を冷やす(秩序を作る)ためには、背面から大量の熱を放出(無秩序を増やす)しなければなりません。軍隊という冷蔵庫の中の秩序は、農村という背面に熱を押し付けることで初めて成り立ちます。戦争が終わっても、一度増大したエントロピーは自然には戻りません。だから凶年は必ず訪れるのです。

現代人に教えること

このことわざが現代の私たちに教えてくれるのは、問題解決において力の行使を選択する前に、その長期的な影響を深く考える必要があるということです。これは国家間の紛争だけの話ではありません。

職場での対立、家族内の問題、地域社会の課題。どんな場面でも、強硬な手段に訴えることは可能です。しかし、その瞬間の勝利の後に何が残るでしょうか。壊れた関係、失われた信頼、そして長く続く不和。大軍の後の凶年は、あらゆる規模の人間関係に当てはまる教訓なのです。

本当の知恵とは、力を持ちながらもそれを抑制し、より建設的な解決方法を探る忍耐力です。対話には時間がかかります。妥協には我慢が必要です。しかし、その先に待っているのは、破壊の後の荒廃ではなく、持続可能な平和なのです。あなたが今日直面している問題に、本当に力による解決が必要でしょうか。それとも、もう少し時間をかけて、誰も傷つかない道を探すことができるでしょうか。

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