其の進むこと鋭き者は其の退くこと速やかなりの読み方
そのすすむことするどきものはそのしりぞくことすみやかなり
其の進むこと鋭き者は其の退くこと速やかなりの意味
このことわざは、勢いよく物事を進める人は、引き際も素早いという人間の行動特性を表しています。激しく前進できる人は、同じ決断力と機敏さで後退もできるという意味です。
これは主に、人の行動パターンや性質を観察して述べるときに使われます。積極的に挑戦する人が、状況が悪くなったときにも素早く判断して撤退できる様子を表現する場面です。また、組織やチームの動きについても用いられ、攻めの姿勢が強い集団は、守りや撤退の判断も迅速であることを指摘する際に使われます。
現代では、この言葉は決断力と行動力の一貫性を示す表現として理解されています。進むことと退くこと、一見正反対の行動ですが、どちらも同じ資質から生まれるという洞察が込められています。素早く動ける人は、方向が前でも後ろでも、その素早さは変わらないのです。
由来・語源
このことわざは、中国の古典思想、特に兵法書の影響を受けていると考えられています。「進むこと鋭き」「退くこと速やかなり」という対句的な表現は、漢文の文体の特徴をよく表しており、日本に伝わった漢籍から生まれた可能性が高いでしょう。
兵法の世界では、攻撃の勢いと撤退の素早さは表裏一体の関係にあります。激しく攻め込む軍勢は、同時に素早く引く能力も持っているという軍事的な観察が、このことわざの背景にあると推測されます。勢いよく進軍できる軍隊は、統率が取れており、指揮系統が明確で、兵士たちの動きが機敏です。そうした組織は、撤退の判断が下されたときも、同じ機敏さで行動できるのです。
また、このことわざは人間の性質についての洞察も含んでいます。物事に勢いよく取り組める人は、決断力があり、行動が素早い特性を持っています。その特性は、進むときだけでなく、退くときにも発揮されるという人間観察が込められているのです。「鋭き」という言葉が使われているのは、単なる速さではなく、切れ味のある鋭敏な動きを表現しているからでしょう。このことわざは、行動の速さという表面的な現象の奥にある、人や組織の本質的な特性を見抜いた言葉として、長く伝えられてきたと考えられます。
使用例
- あの起業家は新規事業への参入も早いが、撤退の判断も早い。まさに其の進むこと鋭き者は其の退くこと速やかなりだ
- 彼女はプロジェクトに全力で取り組むけれど、無理だと分かればすぐに方向転換する。其の進むこと鋭き者は其の退くこと速やかなりというのは本当だね
普遍的知恵
このことわざが語る普遍的な真理は、人間の行動特性の一貫性です。私たちは「攻めること」と「引くこと」を別々の能力だと考えがちですが、実はどちらも同じ根っこから生まれているのです。
勢いよく前進できる人が持っているのは、決断力、状況判断力、そして実行力です。これらの資質は、進むときだけに発揮されるものではありません。撤退という難しい決断を下すときにも、同じ資質が必要になります。むしろ、引き際の判断には、より高度な決断力が求められるかもしれません。
人間は本能的に、一度始めたことを続けたがる生き物です。投資した時間や労力を無駄にしたくないという心理が働きます。だからこそ、素早く退く能力は、素早く進む能力と同じくらい貴重なのです。
先人たちは、この一貫性を見抜いていました。機敏な人は、どの方向に動くときも機敏です。鈍重な人は、進むのも退くのも遅いのです。このことわざは、人間の本質的な行動パターンが、状況によって変わるものではないという深い洞察を示しています。
真の行動力とは、前に進む力だけではなく、必要なときに素早く方向を変える力も含んでいる。この普遍的な真理を、このことわざは簡潔に伝えているのです。
AIが聞いたら
急速に進む者が急速に退くのは、エネルギーの使い方が極端だからです。物理学では、同じ量のエネルギーを短時間で使うか長時間で使うかで、システムの安定性が大きく変わります。
たとえば人間の筋肉には速筋と遅筋があります。速筋は瞬発力に優れますが、エネルギーを急激に消費するため数秒しか持ちません。一方、遅筋は出力は低いものの何時間も動き続けられます。つまり高出力と持続性はトレードオフの関係にあるのです。このことわざの「鋭い進撃」は速筋型の戦略で、短時間に資源を集中投下します。しかしこの配分方法では予備エネルギーがないため、想定外の事態が起きると即座に機能停止します。退却が速いのは弱いからではなく、そもそも長期戦の設計になっていないからです。
さらに興味深いのは散逸構造理論との関連です。急激に秩序を作るシステムほど、外部からの大量のエネルギー流入に依存します。竜巻や渦は美しい構造ですが、エネルギー供給が途絶えた瞬間に消滅します。企業でも急成長するスタートアップが資金繰り悪化で突然倒産するのは、高成長という秩序を維持するエネルギー流が止まったからです。速さと脆さは、同じエネルギー戦略が生む双子なのです。
現代人に教えること
このことわざが現代の私たちに教えてくれるのは、真の機動力とは何かということです。ビジネスでも人生でも、私たちは「前進すること」ばかりに目を向けがちです。しかし、本当に大切なのは、状況に応じて素早く動ける柔軟性なのです。
あなたが何か新しいことに挑戦するとき、同時に「引き際」についても考えておくことが賢明です。これは消極的な姿勢ではありません。むしろ、素早く進める人だからこそ、素早く退くこともできるという自信を持つことです。撤退は失敗ではなく、次の一手のための戦略的な動きなのです。
現代社会では、変化のスピードが加速しています。昨日まで正しかった判断が、今日は通用しないこともあります。そんな時代だからこそ、進むことと退くことの両方に長けていることが、あなたの強みになります。
大切なのは、行動の速さそのものよりも、その速さをコントロールできることです。勇気を持って前進し、必要なら潔く方向転換する。その両方ができるあなたは、どんな状況でも道を切り開いていけるはずです。


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