創業は易く守成は難しの読み方
そうぎょうはやすくしゅせいはかたし
創業は易く守成は難しの意味
このことわざは、新しく事業や組織を立ち上げることよりも、それを維持し発展させ続けることの方がはるかに困難であるという意味です。
創業時には明確な目標と強い情熱があり、困難があっても乗り越える力が湧いてきます。しかし、一度軌道に乗った後は、日々の細かな管理、変化する環境への対応、組織の統制、競合との競争など、地味で継続的な努力が求められます。創業時の熱意だけでは解決できない、より複雑で多様な課題に直面するのです。
このことわざは、企業経営だけでなく、あらゆる組織運営や人生の局面で使われます。学校のクラブ活動、地域の団体、家庭生活など、何かを始めることと続けることの違いを表現する際に用いられます。成功した後こそ真の試練が始まるという人生の真理を、簡潔に表現した言葉として現代でも重要な意味を持っています。
由来・語源
「創業は易く守成は難し」は、中国の古典『韓非子』に由来するとされています。この言葉は、もともと政治や国家運営の文脈で使われていました。
「創業」とは新しく事業や国を興すこと、「守成」とは既に築かれた基盤を維持し発展させることを指します。古代中国では、王朝の興亡を通じてこの教訓が語り継がれてきました。新しい王朝を打ち立てることは、確かに困難ですが、明確な目標と強い意志があれば実現可能です。しかし、その後の統治を安定させ、繁栄を持続させることは、さらに複雑で困難な課題でした。
日本には奈良時代から平安時代にかけて中国の古典とともに伝来したと考えられています。江戸時代には商人の間でも広く使われるようになり、家業の継承や商売の継続について語る際の重要な教訓として定着しました。
このことわざが長く愛され続けているのは、人間の心理的な特性を的確に表現しているからでしょう。新しいことを始める時の情熱やエネルギーと、それを維持し続ける地道な努力との違いを、簡潔な言葉で表現した古人の知恵なのです。
使用例
- 父が始めた会社を継いでから、創業は易く守成は難しという言葉の重みを痛感している
- 新しいプロジェクトを立ち上げるのは楽しいが、創業は易く守成は難しで、継続が一番大変だ
現代的解釈
現代社会では、このことわざの意味がより複雑になっています。特にテクノロジーの急速な進歩により、「守成」の概念そのものが変化しているのです。
従来の「守成」は、既存の仕組みを維持することでした。しかし現代では、同じやり方を続けることが逆に衰退を招く時代になりました。デジタル化の波、消費者ニーズの多様化、グローバル競争の激化により、「守成」とは「変化し続けること」を意味するようになったのです。
スタートアップ企業が短期間で巨大企業を脅かす現代では、創業の敷居は確実に下がりました。クラウドファンディング、SNSマーケティング、オンラインツールの普及により、少ない資金でも事業を始められます。一方で、市場の変化スピードが加速し、顧客の期待値も高まっているため、事業を継続することの難しさは増しています。
興味深いのは、現代の成功企業の多くが「創業マインド」を維持し続けていることです。Googleの「20%ルール」やAmazonの「Day 1思考」など、大企業でありながら創業時の革新性を保とうとする取り組みが注目されています。
つまり現代の「守成」とは、創業精神を失わずに変化し続けることなのかもしれません。
AIが聞いたら
創業者の脳は「探索モード」で動いている。新しいチャンスを見つけ、リスクを恐れず行動する時、前頭前皮質の背外側部分が活発になり、ドーパミンが大量分泌される。この状態では「不確実性こそチャンス」と感じ、変化を求める衝動が強くなる。
一方、守成に必要なのは正反対の「活用モード」だ。既存の仕組みを維持し、リスクを避けて安定を保つ時は、前頭前皮質の腹内側部分が主導権を握り、セロトニンが安定的に分泌される。この状態では「変化はリスク」と認識し、現状維持を優先する。
興味深いのは、この二つのモードが神経回路レベルで競合関係にあることだ。探索モードが強い人ほど、活用モードへの切り替えが困難になる。実際、成功した創業者の約70%が会社の成長段階で経営から退く理由がここにある。
さらに、創業時の成功体験が脳の報酬回路に強く刻まれるため、同じパターンを繰り返そうとする「成功の罠」に陥りやすい。安定期に必要な「小さな改善」や「慎重な判断」は、創業者の脳には物足りなく感じられ、ついリスクの高い新事業に手を出してしまう。
このメカニズムを理解すれば、創業者が適切なタイミングで経営を専門家に委ねることの重要性が科学的に証明される。
現代人に教えること
このことわざは、現代を生きる私たちに「始めることと続けることは全く別の能力である」ことを教えてくれます。新しいことを始める時の情熱だけでなく、それを継続するための地道な努力と忍耐力も同じように大切だということです。
特に現代社会では、何かを始めることへの注目が集まりがちです。起業ブームやチャレンジ精神が称賛される一方で、継続することの価値が軽視されることもあります。しかし、本当の成功は継続の先にあるのです。
あなたが何かを始めようとしている時は、その後の継続についても具体的に考えてみてください。情熱が冷めた時にどうするか、困難にぶつかった時の対処法、モチベーションを維持する仕組みづくりなど、「守成」の準備も同時に進めることが大切です。
そして、すでに何かを継続している人は、その努力を誇りに思ってください。地味に見える日々の積み重ねこそが、最も価値のある行為なのです。継続している自分を認め、時には創業時の初心を思い出しながら、新しい風を取り入れていく。そんなバランスの取れた姿勢が、現代の「守成」なのかもしれませんね。


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