猩猩は血を惜しむ、犀は角を惜しむの意味・由来・使い方|日本のことわざ解説

ことわざ

猩猩は血を惜しむ、犀は角を惜しむの読み方

しょうじょうはちをおしむ、さいはつのをおしむ

猩猩は血を惜しむ、犀は角を惜しむの意味

このことわざは、自分にとって最も大切なものを惜しんで守ろうとする人間の本能的な行動を表しています。猩猩が自らの血を、犀が自らの角を命がけで守るように、人は誰しも自分にとってかけがえのない何かを持っており、それを失うことを恐れて必死に守ろうとするものです。

この表現は、人が自分の大切なものに執着する様子を描写する際に使われます。それは物質的な財産かもしれませんし、地位や名誉、あるいは才能や技術といった無形のものかもしれません。重要なのは、その人にとって何よりも価値があり、失いたくないと強く思うものだということです。

現代においても、人が自分の専門性や培ってきた技術、築き上げた人間関係など、自分のアイデンティティに関わる大切なものを守ろうとする姿勢を表現する際に、このことわざは的確な比喩として機能します。

由来・語源

このことわざの由来については、明確な文献上の初出は定かではありませんが、中国の古典的な思想や動物に関する伝承から生まれたと考えられています。

猩猩(しょうじょう)は、中国の伝説上の生き物で、人間のような知恵を持ち、特に酒を好むとされる霊獣です。この猩猩の血は、古来より赤い染料として非常に貴重なものとされていました。一説には、猩猩の血で染めた布は決して色褪せないと信じられ、権力者たちがこぞって求めたと言われています。そのため、猩猩は自らの血を奪われることを何よりも恐れ、警戒していたという話が伝わっています。

一方の犀(さい)は、その角が漢方薬として珍重され、解毒や解熱の効能があるとされてきました。犀角は象牙と並ぶ貴重品として取引され、犀は常に人間から狙われる存在でした。そのため、犀は自分の角を守るために警戒心が強く、危険を察知すると真っ先に角を守る行動を取ると観察されていたようです。

このように、それぞれの生き物が自分にとって最も価値あるもの、命の次に大切なものを必死で守ろうとする姿から、このことわざが生まれたと考えられています。人間もまた、自分にとってかけがえのないものを守ろうとする本能を持つという普遍的な真理を、動物の生態に託して表現したのでしょう。

豆知識

猩猩という生き物は、現代ではオランウータンを指すこともありますが、中国の古典に登場する猩猩は伝説上の霊獣で、人間の言葉を理解し、特に美酒を好むとされていました。その姿は猿に似ているとも、犬に似ているとも言われ、鳴き声が非常に美しいという特徴も伝えられています。

犀の角は、実は毛が固まってできたもので、骨ではありません。ケラチンというタンパク質でできており、人間の爪や髪の毛と同じ成分です。それでも古来より薬効があると信じられ、金よりも高価に取引されることもあったため、犀は乱獲の対象となり、現在では多くの種が絶滅の危機に瀕しています。

使用例

  • 彼は自分が開発した技術を他社に教えることを頑なに拒んでいるが、まさに猩猩は血を惜しむ、犀は角を惜しむだね
  • 長年培ってきた顧客リストを後輩に渡したがらないのは、猩猩は血を惜しむ、犀は角を惜しむということか

普遍的知恵

このことわざが示しているのは、生き物が本能的に自分の価値の源泉を守ろうとする、極めて自然な姿です。猩猩にとっての血、犀にとっての角は、単なる身体の一部ではなく、自分という存在を脅かす者たちが狙う、まさに命の次に大切なものでした。

人間もまた同じです。私たちは誰しも、自分を自分たらしめている何かを持っています。それは長年かけて磨いてきた技術かもしれませんし、苦労して築き上げた地位かもしれません。あるいは、人には見えない内面的な価値観や信念かもしれません。そうした自分の核となるものを失うことは、自分という存在の一部を失うことに等しいのです。

このことわざが長く語り継がれてきたのは、この執着が決して浅はかな欲望ではなく、生存本能に根ざした深い感情だからでしょう。大切なものを守ろうとする心は、時に頑固に見えたり、利己的に映ったりするかもしれません。しかし、それは生き物として当然の反応なのです。

先人たちは、この人間の本質を動物の姿に重ねて表現しました。猩猩も犀も、自分の宝を守るために警戒を怠りません。その姿は滑稽でも愚かでもなく、生きるということの真剣さを物語っています。大切なものを持つということは、同時にそれを守る覚悟を持つということ。この普遍的な真理を、このことわざは静かに、しかし力強く伝えているのです。

AIが聞いたら

生物が進化の過程で獲得した形質には、開発コストと維持コストがかかります。たとえば犀の角は、ケラチンというタンパク質でできていて、体内のカルシウムやエネルギーを大量に消費して成長させる「高価値資産」です。通常の生態系では、この投資は縄張り争いや防衛に役立つため、生存に有利に働きます。

ところが人間による市場経済が介入すると、この計算式が崩壊します。犀の角1キログラムの闇市場価格は金よりも高く、約6万ドルに達するという報告があります。この異常な外部評価が、犀に「角を守るために命を懸ける」という進化的に想定外の行動を強いるのです。逃げれば生き延びられる状況でも、角を守ろうと攻撃的になり、結果的に密猟者に殺される確率が上がる。つまり本来は適応的だった形質が、外部システムの介入で自己破壊的な罠に変わったわけです。

これは「価値の二重構造」という現象です。生物学的価値と経済的価値が乖離すると、個体は自分にとっての本来の価値判断ができなくなります。人間社会でも、特定の才能や資格が市場で高く評価されると、それを失うことへの恐怖が過剰になり、健康や人間関係を犠牲にしてしまう例は多い。進化が想定しなかった評価システムに直面したとき、生物の防衛本能そのものが最大の脆弱性になるという逆説がここにあります。

現代人に教えること

このことわざが現代の私たちに教えてくれるのは、自分にとって本当に大切なものが何かを見極め、それを守る覚悟を持つことの重要性です。情報があふれ、価値観が多様化した現代社会では、何を大切にすべきか分からなくなることがあります。しかし、猩猩が血を、犀が角を守るように、あなたにも守るべき核となるものがあるはずです。

それは、あなたが長年培ってきた専門性かもしれませんし、大切な人との関係性かもしれません。あるいは、譲れない信念や価値観かもしれません。大切なのは、それを明確に認識し、安易に手放さないことです。

同時に、このことわざは他者への理解も促してくれます。誰かが何かに強く執着しているように見えるとき、それはその人にとっての「血」や「角」なのかもしれません。表面的には頑固に見える態度の背後に、その人の生き方や誇りが隠れていることを理解できれば、より深い共感が生まれるでしょう。

自分の大切なものを守りながら、他者の大切なものも尊重する。そんなバランスの取れた生き方を、このことわざは静かに教えてくれているのです。

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