書を以て御を為す者は馬の情を尽くさずの意味・由来・使い方|日本のことわざ解説

ことわざ

書を以て御を為す者は馬の情を尽くさずの読み方

しょをもってぎょをなすものはうまのじょうをつくさず

書を以て御を為す者は馬の情を尽くさずの意味

このことわざは、理論や知識だけで実践を行う者は、対象の本質を理解できないという意味です。書物で学んだ知識だけを頼りに馬を操ろうとしても、馬の本当の気持ちや性質を深く理解することはできません。

これは馬の扱いに限らず、あらゆる実践的な分野に当てはまる教えです。たとえば、マニュアルだけ読んで現場に出た人が、実際の状況に対応できずに困る場面を想像してみてください。理論と実践の間には大きな隔たりがあり、本当の理解は体験を通じてしか得られないのです。

このことわざを使うのは、頭でっかちな知識偏重を戒める場面です。現代でも、資格試験には合格したけれど実務経験が乏しい人や、理論は完璧でも現場感覚に欠ける人を指して使われます。真の理解には、知識と経験の両方が必要だという、時代を超えた真理を伝えているのです。

由来・語源

このことわざは、中国の古典『韓非子』に由来すると考えられています。『韓非子』は紀元前3世紀頃に書かれた法家思想の代表的な書物で、その中に馬の御し方について論じた一節があります。

「御」とは馬を操ることを意味し、古代において馬を巧みに操る技術は非常に重要なものでした。戦場での戦車の操縦や、移動手段としての馬の扱いは、実践的な技能として高く評価されていたのです。

このことわざが示すのは、書物に書かれた理論だけで馬を御そうとする者は、決して馬の本当の気持ちや性質を理解できないという教えです。馬は生き物ですから、その時々の気分や体調、個体差があります。書物には一般的な方法論は書かれていても、目の前の馬が何を感じ、何を求めているかは、実際に触れ合い、経験を積まなければ分からないのです。

古代中国では、実学を重んじる思想が強くありました。特に法家思想では、理論よりも実践、観念よりも現実を重視する傾向がありました。このことわざは、そうした思想的背景の中で生まれ、日本にも伝わって広く使われるようになったと考えられています。

使用例

  • 彼は経営学の本ばかり読んでいるが、書を以て御を為す者は馬の情を尽くさずで、実際の店舗運営では苦労している
  • プログラミングの教科書を完璧に覚えても、書を以て御を為す者は馬の情を尽くさずというから、まずは実際にコードを書いてみることが大切だ

普遍的知恵

このことわざが語る普遍的な真理は、知識と経験の本質的な違いについてです。人間は古来より、物事を理解する方法として「学ぶこと」と「体験すること」の二つを持っていました。しかし、この二つは決して同じものではありません。

なぜ理論だけでは不十分なのでしょうか。それは、生きた対象には無数の変数があり、マニュアル化できない微妙な要素が存在するからです。馬という生き物は、その日の気分も違えば、個体ごとの性格も異なります。風の強さ、周囲の音、乗り手の緊張感まで、すべてが馬の反応に影響を与えます。こうした複雑な現実は、文字に書き表すことができません。

人間には、頭で理解することと、体で理解することの二つの知り方があります。自転車の乗り方をどれだけ詳しく説明されても、実際に乗ってバランスを取る感覚は体験しなければ分かりません。料理のレシピを暗記しても、火加減の微妙な調整は何度も作ってみなければ身につきません。

このことわざが長く語り継がれてきたのは、人間が常に「知っていること」と「できること」の違いに直面してきたからです。知識は出発点に過ぎず、真の理解は対象と向き合い、失敗を重ね、感覚を研ぎ澄ませる中で初めて得られるのです。

AIが聞いたら

制御工学では、システムを動かす方法を大きく二つに分けます。開ループ制御と閉ループ制御です。開ループは「こうすればこうなるはず」という予測だけで動かす方法。閉ループは相手の反応を見ながら調整する方法です。

マニュアル通りに馬を操ろうとするのは、典型的な開ループ制御です。「手綱を3センチ引けば右に曲がる」と書いてあっても、実際の馬は疲れているかもしれないし、興奮しているかもしれない。路面が滑りやすいかもしれないし、風が強いかもしれない。これらの変数は無限にあります。現代の自動運転技術でさえ、完全な開ループ制御は不可能だとされています。センサーで常に周囲をチェックし続ける必要があるのです。

一方、優れた騎手は馬の耳の動き、筋肉の緊張、呼吸のリズムから状態を読み取り、瞬時に操作を調整します。これは毎秒何十回もフィードバックを受け取る高速閉ループ制御です。制御理論では、フィードバックの速度と精度が上がるほど、複雑な対象を安定して制御できることが数学的に証明されています。

興味深いのは、人間と馬という二つの知的システムが相互作用する場合、フィードバックは双方向になる点です。馬も騎手の微細な動きを感じ取り、反応を返します。これは現代のロボット工学が目指す「人間協調型制御」そのものです。古代の人々は、数式なしでこの本質を見抜いていたのです。

現代人に教えること

このことわざが現代のあなたに教えてくれるのは、学びと実践のバランスの大切さです。情報があふれる現代社会では、知識を得ることは以前よりずっと簡単になりました。インターネットで検索すれば、あらゆる分野のノウハウが手に入ります。しかし、だからこそ私たちは「知っている」と「できる」の違いを見失いがちなのです。

新しいことを始めるとき、完璧に準備してから取り組もうとしていませんか。もちろん基礎知識は大切ですが、ある程度学んだら、思い切って実践に飛び込むことが必要です。失敗を恐れず、小さな一歩を踏み出してください。

実践の中でこそ、本当の学びがあります。うまくいかない経験、予想外の出来事、そこから得られる気づきこそが、あなたを成長させます。書物は地図のようなものです。地図を眺めているだけでは、その土地の空気も、風の匂いも、道の起伏も分かりません。実際に歩いてみて初めて、本当の理解が生まれるのです。

知識と経験、両方の翼を持って、あなたらしい道を進んでいってください。

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