死馬の骨を買うの読み方
しばのほねをかう
死馬の骨を買うの意味
「死馬の骨を買う」とは、優秀な人材を招くために、まず手近にいる人を厚遇することで、その姿勢を示し、結果的により優れた人材を引き寄せるという意味です。
一見無価値に思えるものに対しても真剣に向き合い、適切な評価を与えることで、本当に価値のあるものを手に入れる機会を作り出すという戦略的な考え方を表しています。現代のビジネスシーンでも、この考え方は非常に有効ですね。例えば、経験の浅い社員であっても丁寧に指導し、適切に評価することで、その企業の人材育成への真剣な姿勢が伝わり、優秀な人材が集まりやすくなるのです。また、小さな取引先や顧客に対しても誠実に対応することで、より大きなビジネスチャンスにつながることもあります。このことわざが教えてくれるのは、目先の損得だけでなく、長期的な視点で物事を捉える重要性なのです。
由来・語源
「死馬の骨を買う」は、中国の古典『戦国策』に記されている故事が由来となっています。この物語は、燕の昭王が賢人を招きたいと願った時代に遡ります。
昭王が郭隗という賢者に「どうすれば優秀な人材を集められるでしょうか」と相談したところ、郭隗は興味深い例え話を持ち出しました。それは、ある王が千金を出してでも千里を駆ける名馬を手に入れたいと願った話です。家臣がその名馬を探しに行ったのですが、到着した時にはすでにその馬は死んでいました。
普通なら諦めるところですが、この家臣は死んだ馬の骨を五百金で買って帰ったのです。王は当然怒りましたが、家臣は「死んだ馬の骨でさえこれほどの金額で買うのですから、生きた名馬にはどれほどの価値を認めてくださるか」と説明しました。
この噂が広まると、各地から名馬を持った人々が次々と王のもとを訪れるようになったというのです。郭隗はこの話を通じて、まず身近な人材を重用することで、遠方からも優秀な人材が集まってくるという道理を昭王に説いたのです。
使用例
- 新人研修に予算をかけるのは死馬の骨を買うようなものだが、それが会社の姿勢を示すことになる
- 地方の小さな大学からも積極的に採用するのは死馬の骨を買う戦略の現代版だね
現代的解釈
現代社会では、「死馬の骨を買う」の考え方がより重要性を増しています。特にSNSやインターネットの普及により、企業や個人の評判が瞬時に広まる時代だからこそ、この戦略的思考が威力を発揮するのです。
採用市場を見てみると、優秀な人材の獲得競争は激化する一方です。大手企業が高額な報酬で人材を囲い込む中、中小企業やスタートアップはどう戦えばよいのでしょうか。ここで「死馬の骨を買う」発想が活きてきます。未経験者や他社で評価されていない人材に対しても、丁寧な研修制度や成長機会を提供することで、「この会社は人を大切にする」という評判が生まれ、結果的に優秀な人材が集まってくるのです。
また、現代では「インフルエンサーマーケティング」という形でこの考え方が応用されています。まだフォロワーが少ない新人インフルエンサーを早期に発掘し、適切にサポートすることで、将来的に大きなリターンを得る企業が増えています。
さらに、地域活性化の分野でも同様です。過疎化が進む地域に移住する若者を手厚くサポートすることで、その地域の魅力が口コミで広がり、さらなる移住者を呼び込む好循環が生まれています。現代こそ、この古典的な知恵が新しい価値を生み出しているのです。
AIが聞いたら
郭隗が燕王に「まず私を重用せよ」と提案した行動は、現代経済学の「シグナリング理論」そのものです。シグナリング理論では、情報を持つ側が「コストのかかる信号」を送ることで自分の本気度や能力を証明しますが、郭隗の提案はまさにこの理論の完璧な実例なのです。
死んだ馬の骨に大金を払うという「非合理的」に見える行為は、実は極めて合理的な戦略でした。なぜなら、この行動には「偽装不可能性」があるからです。本当に優秀な人材を求めていない王なら、無駄な馬の骨にお金を払うはずがありません。つまり、このコストのかかる行動こそが「本物の証明」となるのです。
現代企業でも同じ原理が働いています。グーグルが新卒に1000万円以上の初任給を提示するのは、単なる人件費ではなく「我々は本当に優秀な人材を求めている」というシグナルです。高いコストをかけることで、中途半端な企業では真似できない信頼性を獲得しているのです。
さらに興味深いのは、郭隗の戦略が「連鎖反応効果」まで計算していた点です。一人の凡人への投資が、複数の天才を呼び寄せるという「投資の乗数効果」を古代中国ですでに理解していたのです。現代のベンチャーキャピタルが行う「シード投資」の考え方と驚くほど一致しています。
現代人に教えること
「死馬の骨を買う」が現代人に教えてくれるのは、短期的な損得にとらわれず、長期的な視点で物事を捉える大切さです。あなたの周りにも、一見価値が分からない人や機会があるかもしれません。でも、そこに真剣に向き合うことで、思わぬ可能性が開けることがあるのです。
現代社会では、即効性や効率性ばかりが重視されがちですが、本当に大切なのは信頼関係を築くこと。新人の部下、小さな取引先、地域のコミュニティ活動など、目先の利益にならないことにも誠実に取り組む姿勢が、やがて大きな成果となって返ってきます。
このことわざは、「投資」の本質を教えてくれています。お金だけでなく、時間や労力、そして心を投じることで、予想を超える豊かな未来を手に入れることができる。あなたも今日から、身近な「死馬の骨」に目を向けてみませんか。きっと新しい発見があるはずです。


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