策士策に溺れるの意味・由来・使い方|日本のことわざ解説

ことわざ

策士策に溺れるの読み方

さくしさくにおぼれる

策士策に溺れるの意味

「策士策に溺れる」とは、策略を巧みに使うことに長けた人が、かえってその策略に頼りすぎたり、複雑にしすぎたりして失敗することを意味します。

このことわざは、知恵や策略そのものを否定しているわけではありません。むしろ、能力のある人だからこそ陥りやすい罠について警告しているのです。策士と呼ばれるような人は、普段から頭の回転が早く、様々な状況に対して巧妙な解決策を考え出すことができます。しかし、その能力への過信が災いして、シンプルで確実な方法があるにも関わらず、わざわざ複雑で巧妙な策略を選んでしまうことがあるのです。

このことわざを使う場面は、優秀な人が自分の得意分野で失敗した時や、単純な解決策を避けて複雑な方法を選んだ結果、かえって問題を大きくしてしまった時などです。「あの人は頭がいいのに、考えすぎて失敗してしまった」という状況を表現する時に使われます。現代でも、仕事や人間関係において、このような状況は決して珍しくありませんね。

由来・語源

「策士策に溺れる」の由来は、中国古典の思想に根ざしていると考えられています。「策士」という言葉自体が、中国の戦国時代に活躍した軍師や政治家を指す言葉として使われていたことからも、その古い歴史がうかがえますね。

このことわざの核心にある「溺れる」という表現は、水に溺れることの比喩です。泳ぎの達人でも、自分の技術を過信して危険な場所に入れば溺れてしまうように、策略に長けた人ほど、自分の能力を過信して失敗するという教訓を込めているのです。

日本では江戸時代の文献にこの表現が見られるようになり、武士社会における処世術や政治的駆け引きの文脈で使われていました。当時の武士たちは、主君への忠義と同時に、生き抜くための知恵や策略も必要とされていたため、このことわざは特に重要な意味を持っていたのでしょう。

「策に溺れる」という部分には、策略が本来は手段であるべきなのに、いつの間にか目的化してしまう人間の性質への警告が込められています。賢い人ほど陥りやすいこの落とし穴を、先人たちは鋭く見抜いていたのですね。

使用例

  • 彼は営業のプロなのに、複雑な提案書を作りすぎて契約を逃すなんて、まさに策士策に溺れるだね
  • いつも機転の利く部長が、今回の企画では策士策に溺れる結果になってしまった

現代的解釈

現代社会では、「策士策に溺れる」現象がより複雑で多様な形で現れています。特に情報化社会において、データ分析やマーケティング戦略、SNS運用などの分野で、この教訓が当てはまる場面が増えているのです。

ビジネスの世界では、優秀なマーケターが複雑すぎるキャンペーンを企画して失敗したり、データサイエンティストが高度な分析手法にこだわりすぎて、シンプルな解決策を見落としたりする例が後を絶ちません。また、SNSでの情報発信においても、巧妙な戦略を練りすぎて炎上してしまうケースも見られます。

テクノロジーの発達により、私たちは以前よりもはるかに多くの「策略」を使えるようになりました。AI、ビッグデータ、自動化ツールなど、様々な手段が手軽に利用できる時代です。しかし、これらのツールに頼りすぎて、本来の目的を見失ってしまう危険性も高まっています。

興味深いことに、現代では「策士策に溺れる」を単に「計画が複雑すぎて失敗した」という意味で使う人も増えています。本来の「策略に長けた人の失敗」という意味から、より広い意味での「考えすぎによる失敗」として理解されることも多くなっているのです。

この変化は、現代人の多くが何らかの形で「策士」的な思考を求められる社会になったことを反映しているのかもしれません。

AIが聞いたら

テクノロジー業界では、データ至上主義が新たな「策に溺れる」現象を生み出している。Googleの元CEOエリック・シュミットは「データがあれば直感は不要」と豪語したが、同社は2018年、AIの軍事利用プロジェクト「Project Maven」で社員の大規模反発を招き、撤退を余儀なくされた。膨大なデータ分析で「効率的」と判断したプロジェクトが、人間の倫理観という「計算できない要素」を見落としていたのだ。

Facebookも同様の罠にはまった。2016年の大統領選挙で、同社のアルゴリズムは「エンゲージメント最大化」という目標を完璧に達成し、偽情報を拡散させた。数学的には正解だったが、社会的には大失敗。ザッカーバーグ自身が議会で謝罪する羽目になった。

最も皮肉なのは、AI開発者たちがAIの判断を盲信する現象だ。2018年、Uberの自動運転車が歩行者を死亡させた事故では、システムが歩行者を正しく認識していたにも関わらず、「予期しない動き」として処理を後回しにしていた。開発者たちは自らのアルゴリズムを過信し、人間のドライバーなら瞬時に行う「とりあえず止まる」という単純な判断を軽視していた。

現代の策士たちは、自分が作り出したデジタルの策略に溺れ、アナログな人間性を見失っているのだ。

現代人に教えること

「策士策に溺れる」が現代人に教えてくれるのは、能力と謙虚さのバランスの大切さです。あなたが何かの分野で経験を積み、スキルを身につけるほど、このことわざの教訓は重要になってきます。

現代社会では、常に効率化や最適化が求められがちですが、時には「シンプルイズベスト」の精神を思い出すことが必要です。複雑な解決策が必ずしも優れているわけではありません。むしろ、相手にとって分かりやすく、実行しやすい方法の方が、結果的に成功につながることが多いのです。

特に人間関係においては、この教訓が光ります。相手の心を動かそうとして複雑な戦略を練るよりも、素直で誠実なコミュニケーションの方が、はるかに効果的な場合があります。

あなたの持つ知恵や経験は、確実にあなたの財産です。しかし、それらを使う時は、常に「本当にこれが最善の方法だろうか?」と自問してみてください。時には一歩下がって、初心者の目線で物事を見直してみる。そんな柔軟性こそが、真の賢さなのかもしれませんね。

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