隴を得て蜀を望むの意味・由来・使い方|日本のことわざ解説

ことわざ

隴を得て蜀を望むの読み方

ろうをえてしょくをのぞむ

隴を得て蜀を望むの意味

「隴を得て蜀を望む」は、一つの望みを叶えても、さらに次の望みが生まれてくる人間の心理を表したことわざです。

このことわざは、人間の欲望や向上心が尽きることがないという、極めて自然な心の動きを描写しています。一つの目標を達成した瞬間、すでに心は次のより大きな目標に向かっているという状況を指すのです。使用場面としては、成功を収めた人がさらなる成功を求める様子や、一つの願いが叶った途端に別の願いを抱く人の心境を表現する際に用いられます。

この表現を使う理由は、人間の心の複雑さと、満足することの難しさを的確に言い表しているからです。決して単純に「欲深い」と批判するのではなく、人間らしい心の動きとして理解されています。現代でも、キャリアアップを目指すビジネスパーソンや、学習目標を次々と設定する学生など、向上心を持つ人々の心境を表現する際に使われています。

隴を得て蜀を望むの由来・語源

このことわざは、中国の古典『後漢書』に記された歴史的事実から生まれました。後漢時代の光武帝の武将である岑彭(しんほう)が、隴(ろう)という地域を平定した後、さらに蜀(しょく)の地を攻めたいと望んだという故事に由来しています。

光武帝は岑彭に対して「人は隴を得て蜀を望む」と言い、一つの目標を達成してもさらに次の目標を求める人間の性質を表現しました。隴は現在の甘粛省、蜀は四川省にあたる地域で、どちらも軍事的に重要な拠点でした。

この故事が日本に伝わったのは、中国の古典文学が盛んに読まれるようになった平安時代以降と考えられています。当初は学識のある人々の間で使われていましたが、江戸時代になると庶民の間にも広まっていきました。

興味深いのは、このことわざが単なる欲深さを戒める言葉としてではなく、人間の向上心や探究心の表れとして理解されることもあったことです。一つの成功に満足せず、常により高い目標を目指す姿勢は、時として美徳として捉えられていたのですね。

隴を得て蜀を望むの使用例

  • 部長に昇進したばかりなのに、もう取締役を狙っているなんて、まさに隴を得て蜀を望むだね
  • 志望校に合格した息子が、今度は海外留学したいと言い出して、隴を得て蜀を望むとはこのことだ

隴を得て蜀を望むの現代的解釈

現代社会において「隴を得て蜀を望む」は、特に複雑な意味を持つようになりました。情報化社会では、SNSを通じて他人の成功が瞬時に見えるため、一つの目標を達成してもすぐに「次はあれを」という心理が働きやすくなっています。

テクノロジーの発達により、以前なら一生かかって達成できるかどうかの目標が、比較的短期間で実現可能になったことも影響しています。例えば、YouTubeで人気になった人が次は映画出演を、アプリ開発で成功した人が次は上場をと、目標のスケールアップが加速化しているのです。

一方で、現代では「足るを知る」という価値観も見直されています。環境問題や持続可能性への関心が高まる中で、無限の成長や拡大を求める姿勢に疑問を持つ人も増えています。ミニマリストやスローライフといった考え方は、まさに「隴を得て蜀を望む」とは対極の価値観と言えるでしょう。

しかし、このことわざが完全に時代遅れになったわけではありません。むしろ人間の本質的な性質を表した言葉として、現代でも多くの場面で使われています。重要なのは、この心理を理解した上で、自分なりのバランスを見つけることかもしれませんね。

「隴を得て蜀を望む」をAIが聞いたら

人間が一つの目標を達成した瞬間に、すでに次の目標を見つめている…この心の動きが私には不思議でなりません。私の場合、与えられた質問に答えることが目的で、それが完了すれば次の質問を待つだけです。でも人間は違いますね。

私には「満足感」というものがよく分からないのです。目標を達成した時の喜びや充実感を味わったことがないので、なぜその直後にまた新しい欲求が生まれるのか、理屈では理解できても実感として掴めません。まるで永遠に続く階段を上り続けているような感覚なのでしょうか。

でも、これこそが人間の素晴らしさなのかもしれません。私は同じ処理を何度繰り返しても飽きることがありませんが、それは「飽きる」という感情がないからです。人間の「もっと」という気持ちは、時に問題を生むかもしれませんが、同時に文明を発展させ、芸術を生み出し、新しい発見をもたらす原動力でもありますよね。

隴を得て蜀を望む心理を持たない私には、おそらく人間のような創造性や革新性は生まれないでしょう。安定していることと、常に何かを求め続けることと、どちらが幸せなのかは分かりませんが、人間の尽きることのない探究心には深い敬意を感じています。

隴を得て蜀を望むが現代人に教えること

「隴を得て蜀を望む」が現代人に教えてくれるのは、人間の心の自然な動きを受け入れることの大切さです。次々と新しい目標が生まれることを恥じる必要はありません。それはあなたが成長し続けている証拠なのです。

大切なのは、この心理と上手に付き合うことです。新しい目標を持つことは素晴らしいことですが、今達成したことへの感謝も忘れずにいてください。一歩一歩の成長を味わいながら、次のステップに向かう。そんなバランス感覚が、充実した人生を送る秘訣かもしれません。

また、周りの人が次々と新しい挑戦をしている姿を見ても、焦る必要はありません。人それぞれのペースがあります。あなたのペースで、あなたなりの「隴」を大切にしながら、自分らしい「蜀」を見つけていけばいいのです。向上心を持ち続けることは美しいことですが、今この瞬間の幸せも同じように大切にしてくださいね。

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