老いたる馬は道を忘れずの意味・由来・使い方|日本のことわざ解説

ことわざ

老いたる馬は道を忘れずの読み方

おいたるうまはみちをわすれず

老いたる馬は道を忘れずの意味

このことわざは、長年の経験を積んだ人は、その豊富な知識と経験によって正しい判断ができるという意味です。

年を重ねた人が持つ経験値の重要性を表現したことわざで、特に困難な状況や迷いが生じた時に、経験豊富な人の知恵や判断力がいかに貴重であるかを示しています。老いた馬が何度も通った道を覚えているように、人生の様々な場面を経験してきた人は、若い人には見えない解決策や適切な方向性を示すことができるのです。

このことわざを使う場面は、主に経験豊富な人の助言を求める時や、その価値を認める時です。会社での重要な判断、人生の選択、技術的な問題解決など、様々な局面で年長者の経験が活かされる状況で用いられます。現代でも、デジタル技術が発達した社会において、人間の経験や直感に基づく判断力の重要性は変わらず、むしろその価値が再認識されているといえるでしょう。

由来・語源

このことわざは、中国の古典『韓非子』に記されている故事に由来しています。春秋時代、斉の桓公が遠征の際に道に迷ってしまった時、老いた馬を先頭に立てて歩かせたところ、無事に帰路を見つけることができたという話が元になっているんですね。

『韓非子』では「老馬之智可用也」(老馬の智は用うべきなり)として紹介されており、これが日本に伝わって「老いたる馬は道を忘れず」という表現に変化したと考えられています。古代中国では、馬は重要な交通手段であり、特に戦場や長距離移動では馬の能力が生死を分けることもありました。

興味深いのは、この故事が単なる動物の習性を述べているのではなく、人間社会における経験の価値を説いていることです。老いた馬が持つ「道を知っている」という能力は、まさに長年の経験によって培われた知恵の象徴として描かれているのです。日本では江戸時代の文献にもこのことわざが登場し、儒教的な価値観とともに広く受け入れられていきました。このように、動物の特性を通じて人間の智恵を表現する手法は、東洋の古典文学でよく見られる表現技法なんです。

豆知識

馬は実際に優れた方向感覚を持つ動物で、一度通った道を長期間記憶する能力があります。特に野生の馬は季節ごとの移動ルートを正確に覚えており、群れ全体の生存に関わる重要な能力として進化してきました。

このことわざに登場する「老いたる馬」は、現代の競走馬とは異なり、荷物運搬や移動手段として長年使われてきた実用馬を指しています。そのため、単純な体力ではなく、経験に基づく判断力こそが最も価値のある能力として評価されていたのです。

使用例

  • 新しいプロジェクトで困った時は、やはり田中部長に相談するのが一番だ、老いたる馬は道を忘れずというからね
  • 息子が進路で悩んでいるなら、おじいちゃんに話を聞いてもらったらどうだろう、老いたる馬は道を忘れずで、きっと良いアドバイスをもらえるよ

現代的解釈

現代社会では、このことわざの意味が複雑な様相を見せています。情報化社会の急速な発展により、従来の経験や知識が通用しない場面が増えているのも事実です。デジタル技術の分野では、むしろ若い世代の方が新しい技術に適応しやすく、「老いたる馬」の知恵が必ずしも有効でない場合もあります。

しかし、だからといってこのことわざの価値が失われたわけではありません。むしろ現代だからこそ、その真価が問われているのです。技術は急速に変化しても、人間関係の築き方、困難な状況での判断力、失敗から学ぶ能力など、根本的な人生の知恵は時代を超えて通用します。

特に注目すべきは、AI技術が発達した現代において、人間の経験に基づく直感や創造性の重要性が再認識されていることです。データや論理だけでは解決できない複雑な問題に対して、長年の経験から培われた洞察力や判断力は、依然として貴重な資産なのです。

現代では「老いたる馬は道を忘れず」を、単に年功序列を肯定する言葉としてではなく、経験の蓄積がもたらす智恵の価値を認める言葉として理解することが大切でしょう。世代を超えた知恵の継承こそが、この激動の時代を乗り越える鍵となるのです。

AIが聞いたら

現代社会では「忘れられる権利」がデジタル時代の新たな人権として注目されています。EUでは2014年から検索結果の削除を求める権利が法制化され、日本でも議論が活発化しています。しかし「老いたる馬は道を忘れず」は、まさにこの流れと真逆の価値観を提示しているのです。

興味深いのは、AIが人間の記憶を代替する時代において、このことわざが示す「生きた記憶」の意味が根本的に変化していることです。AIは膨大なデータを蓄積できますが、それは単なる情報の保存に過ぎません。一方、経験豊富な人間の記憶には「文脈」「感情」「直感」が織り込まれています。

例えば、熟練の医師が患者を診る際、過去の症例データだけでなく、その時の空気感や患者の微細な変化まで記憶しています。これは検索可能なデータベースでは再現できない「体験的知識」です。

さらに興味深いのは、現代の「忘れる権利」が個人のプライバシー保護を目的とする一方で、このことわざは「忘れないことの社会的責任」を暗示している点です。災害の教訓、戦争の記憶、技術の失敗例—これらを意図的に忘却することは、社会全体にとって危険な選択となりかねません。

つまり、真の問題は「何を忘れ、何を記憶し続けるべきか」という選択の知恵なのです。

現代人に教えること

このことわざが現代人に教えてくれるのは、経験の価値を見直すことの大切さです。変化の激しい現代だからこそ、私たちは新しいものばかりに目を向けがちですが、長年培われた知恵には時代を超えた普遍的な価値があることを忘れてはいけません。

あなたの周りにいる経験豊富な人たちの言葉に、もう一度耳を傾けてみてください。彼らが歩んできた道のりには、きっとあなたが直面する困難を乗り越えるヒントが隠されているはずです。同時に、あなた自身も日々の経験を大切に積み重ねていくことで、いつか誰かの道しるべとなれる存在になれるのです。

世代間の知恵の継承は、人類が長い歴史の中で培ってきた貴重な財産です。技術は進歩しても、人間の本質的な悩みや喜びは変わりません。だからこそ、経験という名の道を大切に歩み、そして次の世代にその道を伝えていくことが、私たち一人ひとりに求められているのではないでしょうか。

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