飲む者は飲んで通るの読み方
のむものはのんでとおる
飲む者は飲んで通るの意味
「飲む者は飲んで通る」は、酒好きな人は金がなくても何とか工面して結局は飲んでしまうという意味です。そしてこれは酒に限らず、好きなことは何とかやりくりして続けるものだという人間の性質を表しています。
このことわざが使われるのは、誰かが好きなことのために困難を乗り越えている様子を見たときや、自分自身の執着心を表現するときです。お金がない、時間がない、周囲が反対するなど、さまざまな障害があっても、本当に好きなことなら人は必ず方法を見つけ出すものだという観察が込められています。
現代では、この言葉は必ずしも酒に限定されず、趣味や習い事、好きな食べ物など、あらゆる対象に当てはまります。人間の情熱や執着心の強さを、やや諦めの気持ちを込めて、あるいは感心しながら表現する際に用いられます。好きなものへの執着は理屈では説明できないという、人間らしさを認める言葉なのです。
由来・語源
このことわざの明確な由来は文献上はっきりとは残されていないようですが、言葉の構成から興味深い考察ができます。
「飲む者は飲んで通る」という表現は、江戸時代の庶民文化の中で生まれたと考えられています。当時、酒は庶民の数少ない娯楽の一つでした。しかし、日々の生活は決して楽ではなく、酒を飲むための金銭的余裕がない人も多かったはずです。
この言葉の面白さは「通る」という動詞の使い方にあります。「通る」には「道を進む」という意味がありますが、ここでは「何とか切り抜ける」「やり遂げる」という意味で使われています。つまり、金がなくても工面して、結局は酒を飲むという行動を「通る」と表現しているのです。
この表現の背景には、人間の欲望や執着心に対する観察眼があります。好きなことに対する人間の情熱は、障害があってもそれを乗り越えてしまうという、ある意味で普遍的な人間の性質を見抜いていたのでしょう。酒という具体例を使いながら、実は人間行動全般に当てはまる真理を表現した言葉として、庶民の間で広まっていったと推測されます。
使用例
- 彼はまた新しいカメラを買ったらしい、飲む者は飲んで通るとはよく言ったものだ
- 給料日前なのに推しのグッズを予約してしまった、飲む者は飲んで通るというやつだな
普遍的知恵
「飲む者は飲んで通る」ということわざが示しているのは、人間の欲望や情熱の前では、理性や計画性がしばしば無力になるという真実です。これは人間という生き物の本質的な特徴を見抜いた、深い洞察だと言えるでしょう。
私たちは日々、計画を立て、予算を組み、合理的に生きようとします。しかし本当に好きなもの、心から欲しいものを前にすると、そうした理性的な判断は簡単に崩れ去ってしまいます。なぜでしょうか。それは、人間の行動を決めるのは理性だけではなく、感情や欲望という強力な力が存在するからです。
このことわざが長く語り継がれてきたのは、誰もが自分の中にこの性質を認識しているからでしょう。金がないのに飲んでしまう、買ってしまう、やってしまう。そんな自分を責めながらも、どこか「仕方ない」と思ってしまう。この言葉には、そんな人間の弱さを責めるのではなく、むしろ受け入れる温かさがあります。
先人たちは知っていたのです。人間は完璧な理性的存在ではなく、情熱や欲望に突き動かされる存在だということを。そしてその不完全さこそが、人間らしさであり、生きる活力の源でもあるのだと。
AIが聞いたら
このことわざが示すのは、システムが自己制御能力を失った状態です。通常、健全なシステムには「やりすぎたら止まる」という負のフィードバックが働きます。たとえば体温が上がれば汗をかいて冷やす、お腹がいっぱいになれば食欲が消える、といった具合です。ところが「飲む者は飲んで通る」という状態では、この抑止装置が完全に機能停止しています。
興味深いのは、行動そのものが次の行動の燃料になる構造です。飲酒を例にとれば、アルコールが脳の抑制系を麻痺させることで「もう一杯」の判断力が失われ、飲めば飲むほど飲み続ける確率が上がります。これは数学でいう指数関数的な増加パターンです。1が2に、2が4に、4が8にと加速していく。システム工学では、こうした自己強化ループが臨界点を超えると「暴走モード」に入り、外部からの強制停止以外に止める手段がなくなると考えられています。
さらに注目すべきは、このシステムの盲目性です。当事者は自分が制御不能状態にあることを認識できません。なぜなら、判断する脳の部分そのものが、このループによって機能低下しているからです。組織の硬直化も同じ構造で、成功体験という「酔い」が判断力を奪い、同じやり方を繰り返し続けて破綻に至ります。このことわざは、フィードバック不在がもたらす必然的な結末を、驚くほど正確に捉えています。
現代人に教えること
このことわざが現代人に教えてくれるのは、自分の本当の価値観を知る方法です。私たちは「これが大切」「あれを優先すべき」と頭では考えていても、実際の行動は別のことを示しています。時間がないと言いながらSNSを見ている、お金がないと言いながら好きなものは買っている。その行動こそが、あなたの真の優先順位なのです。
これは自分を責めるための教訓ではありません。むしろ、自分の本音に気づくためのヒントです。もしあなたが何かを「続けられない」と悩んでいるなら、それは本当に好きではないのかもしれません。逆に、困難があっても続けていることがあるなら、それこそがあなたにとって大切なものです。
現代社会では「こうあるべき」という外からの声が溢れています。しかし、飲む者は飲んで通るように、人は結局、自分が本当に好きなことを選び取ります。だからこそ、世間の期待ではなく、自分の行動が示す真実に耳を傾けてください。そこにこそ、あなたらしい人生のヒントがあるのです。


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