鶏をして夜を司らしめ、狸をして鼠を執らしむの意味・由来・使い方|日本のことわざ解説

ことわざ

鶏をして夜を司らしめ、狸をして鼠を執らしむの読み方

にわとりをしてよるをつかさどらしめ、たぬきをしてねずみをとらしむ

鶏をして夜を司らしめ、狸をして鼠を執らしむの意味

このことわざは、不適切な者に重要な役割を任せると失敗するという意味を表しています。それぞれの人や物には、生まれ持った特性や得意分野があります。鶏は昼に活動し、猫こそが鼠を捕る名人です。それなのに、鶏に夜の管理を任せたり、狸に鼠捕りをさせたりすれば、うまくいくはずがありませんよね。

このことわざは、組織運営や人材配置の場面で使われます。能力や適性を無視して役職を与えたり、経験のない人に重要な仕事を任せたりする状況を批判する際に用いられるのです。「適材適所」の反対の状況を指摘する表現と言えるでしょう。

現代社会でも、この教えは非常に重要です。人にはそれぞれ向き不向きがあり、得意なことと苦手なことがあります。その特性を見極めずに役割を与えてしまうと、本人も苦しみますし、組織全体にも悪影響が及びます。適切な人材を適切な場所に配置することの大切さを、このことわざは教えてくれているのです。

由来・語源

このことわざは、中国の古典に由来すると考えられています。特に儒教の経典や古代中国の政治思想を記した書物に、似た表現が見られることから、そうした思想が日本に伝わり、ことわざとして定着したという説が有力です。

言葉の構成を見てみましょう。前半の「鶏をして夜を司らしめ」は、本来昼に活動する鶏に夜の管理を任せるという意味です。鶏は夜明けを告げる鳥として知られ、朝を象徴する存在ですね。そんな鶏に夜の仕事を任せても、暗闇では本来の力を発揮できません。

後半の「狸をして鼠を執らしむ」は、狸に鼠を捕まえさせるという意味です。一見すると狸も鼠を捕まえられそうに思えますが、実は狸は鼠を専門的に狩る動物ではありません。鼠を捕るのは猫の得意技です。狸に鼠捕りを任せるのは、適材適所ではないのです。

この二つの例を並べることで、それぞれの生き物が持つ本来の特性を無視して役割を与えることの愚かさを、印象的に表現しています。古代の為政者たちは、人材登用の重要性を説く際に、このような動物の比喩をよく用いたと考えられています。

使用例

  • 営業が得意な彼を経理部長にするなんて、鶏をして夜を司らしめ、狸をして鼠を執らしむようなものだ
  • 未経験者をいきなりプロジェクトリーダーに据えるのは、鶏をして夜を司らしめ、狸をして鼠を執らしむで失敗するに決まっている

普遍的知恵

このことわざが語る普遍的な真理は、人間社会における「適性」の重要性です。なぜ人は、明らかに不向きな人に重要な役割を任せてしまうのでしょうか。

一つには、人の本質を見抜く難しさがあります。表面的な肩書きや学歴、あるいは人間関係だけで判断してしまい、その人が本当に持っている能力や適性を見逃してしまうのです。また、組織の都合や政治的な配慮が優先され、適材適所が後回しにされることもあります。

さらに深い問題として、人は自分の判断の誤りを認めたくないという心理があります。一度任命してしまうと、その判断が間違っていたと認めることは自分の失敗を認めることになるため、問題が明らかになっても修正できないのです。

このことわざが長く語り継がれてきたのは、人材配置の失敗が繰り返されてきた歴史の証でもあります。古代の王朝から現代の企業まで、不適切な人事によって組織が衰退した例は数え切れません。人間は同じ過ちを繰り返す生き物だからこそ、先人たちはこのような警句を残したのでしょう。

適性を見極める目を持つこと、そして誤りに気づいたら勇気を持って修正すること。この二つの知恵こそが、このことわざが時代を超えて伝えようとしているメッセージなのです。

AIが聞いたら

生態学では「競争的排除則」という法則があります。同じ資源を奪い合う二つの種は共存できず、必ずどちらかが消えるという原理です。このことわざが恐ろしいのは、わざと不適格な種をそのニッチに配置することで、本来の専門家を追い出してしまう点にあります。

猫は数万年かけて夜行性の鼠を捕る能力を進化させてきました。瞬発力、夜目、待ち伏せの忍耐力など、すべてが鼠捕獲に最適化されています。ところが狸に鼠捕りをさせると、狸は猫より体が大きく食べる量も多いため、短期的には捕獲数で猫を上回る可能性があります。すると人間は「狸のほうが優秀だ」と判断し、猫への餌やりを減らすかもしれません。しかし狸の本来の採餌戦略は雑食性で、果実も昆虫も食べる非効率的な鼠ハンターです。鼠の個体数が減ると狸はすぐに他の餌に切り替え、結果的に鼠は中途半端に残ります。

さらに深刻なのは、いったん猫という専門家集団が地域から消えると、その技術と遺伝的適応が失われることです。生態系には「ヒステリシス効果」という現象があり、一度崩れたバランスは元の条件に戻しても復元しません。不適格な種を無理やり配置すると、システム全体が後戻りできない劣化状態に陥るのです。

現代人に教えること

このことわざが現代のあなたに教えてくれるのは、自分自身の適性を知ることの大切さです。社会は時に、あなたに不向きな役割を求めてくるかもしれません。周囲の期待や、見栄、あるいは経済的な理由で、本来の自分に合わない道を選んでしまうこともあるでしょう。

でも、立ち止まって考えてみてください。あなたは鶏なのに夜の仕事を引き受けようとしていませんか。自分の強みを活かせる場所で輝くことこそが、あなた自身の幸せにつながり、周囲にも最大の貢献ができるのです。

もしあなたが誰かに役割を任せる立場にいるなら、この教えはさらに重要です。人を見る目を養い、それぞれの個性と強みを理解する努力を惜しまないでください。表面的な条件だけで判断せず、その人が本当に力を発揮できる場所はどこかを考えましょう。

適材適所は、単なる効率の問題ではありません。それは人間の尊厳に関わる問題です。誰もが自分らしく輝ける場所を見つけられる社会、それがこのことわざが目指す理想なのです。

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