二兎を追う者は一兎をも得ずの意味・由来・使い方|日本のことわざ解説

ことわざ

二兎を追う者は一兎をも得ずの読み方

にとをおうものはいっとをもえず

二兎を追う者は一兎をも得ずの意味

このことわざは、同時に二つの目標を追求すると、どちらも達成できずに終わってしまうという意味です。

一つのことに集中せず、あれもこれもと欲張って手を出すと、結果的にすべてが中途半端になってしまうという戒めを表しています。狩人がウサギを一匹ずつ狙えば確実に仕留められるのに、二匹同時に狙うことで注意が散漫になり、どちらも逃してしまうという状況を例えているのです。

このことわざを使う場面は、誰かが複数の目標や計画を同時進行させようとして迷っているときや、集中すべき時に他のことに気を取られている状況です。また、自分自身への戒めとして使うこともありますね。

現代では、転職活動で複数の業界を同時に狙う場合や、勉強で複数の資格を一度に取ろうとする場合、ビジネスで複数の事業を同時展開しようとする場面などで、この教訓が当てはまります。一点集中の大切さを教えてくれる、実に実用的な知恵なのです。

由来・語源

「二兎を追う者は一兎をも得ず」は、古代ヨーロッパの寓話に由来するとされています。この教訓は、狩人が同時に二匹のウサギを追いかけようとして、結局どちらも捕まえられなかったという話から生まれました。

日本には中国を経由して伝わったと考えられており、江戸時代の文献にはすでにこの表現が見られます。中国では「一心不能二用」(一つの心で二つのことはできない)という似た意味の言葉があり、これが日本に入ってきた際に、より具体的で分かりやすいウサギの比喩として定着したのでしょう。

興味深いのは、この教訓が世界各地で似たような形で存在することです。西洋では「He who chases two hares catches neither」として知られ、韓国でも「두 마리 토끼를 쫓는 자는 한 마리도 잡지 못한다」という同じ意味のことわざがあります。

これは人間の本質的な特性、つまり集中力の限界や欲張りな心理が、文化を超えて共通していることを示しているのですね。江戸時代の商人たちも、現代のビジネスパーソンも、同じような場面でこの教訓を必要としてきたのです。

使用例

  • 転職活動では営業と事務の両方を狙っているけれど、二兎を追う者は一兎をも得ずになりそうで心配だ
  • 資格試験の勉強で簿記と英検を同時に受けようと思ったが、二兎を追う者は一兎をも得ずという言葉を思い出して一つに絞ることにした

現代的解釈

現代社会では、このことわざの解釈が複雑になっています。情報化社会において「マルチタスク」が重要なスキルとされ、複数のプロジェクトを同時進行することが当たり前になっているからです。

特にIT業界やスタートアップ企業では、限られたリソースで複数の事業を展開することが求められます。また、個人のキャリア形成においても「複業」や「パラレルキャリア」という概念が注目され、一つの専門性だけでは生き残れない時代とも言われています。

しかし、だからといってこのことわざが時代遅れになったわけではありません。むしろ、選択肢が無限に広がった現代だからこそ、この教訓の価値が高まっているのです。SNSで常に新しい情報が流れ込み、様々な誘惑がある中で、本当に大切なことに集中する力が問われています。

現代的な解釈としては、「同時に複数のことをするな」ではなく、「優先順位をつけて、今この瞬間に最も重要なことに集中せよ」という意味で理解されることが多くなりました。時間管理術でも、一つのタスクに集中する「シングルタスク」の効果が科学的に証明されており、古い知恵が現代科学によって裏付けられている興味深い例と言えるでしょう。

AIが聞いたら

私たちの脳は実際には「マルチタスク」ができません。脳科学者が「タスクスイッチング」と呼ぶ現象が起きているだけです。つまり、複数の作業を同時にこなしているつもりでも、実際は脳が高速で作業を切り替えているに過ぎないのです。

この切り替えには大きな代償があります。スタンフォード大学の研究によると、タスクを切り替えるたびに「認知的コスト」が発生し、集中力を取り戻すまでに平均23分もかかることが判明しています。メールをチェックしながら資料作成をする場合、実際は「メール→資料→メール→資料」と脳が忙しく行き来し、そのたびに効率が落ちているのです。

さらに驚くべきことに、マルチタスクを頻繁に行う人ほど、注意力や記憶力が低下することがMITの研究で証明されています。一つのことに集中している時に活性化する「デフォルトモードネットワーク」という脳回路が乱れ、深い思考ができなくなってしまうのです。

現代のデジタル環境は私たちを常にマルチタスク状態に置きますが、脳科学は明確に示しています。一つのことに集中する「シングルタスク」こそが、最も効率的で質の高い成果を生む方法なのです。古人の知恵が、最新科学によって見事に裏付けられた形です。

現代人に教えること

このことわざが現代の私たちに教えてくれるのは、「選択と集中」の大切さです。情報があふれ、選択肢が無限にある今だからこそ、本当に大切なものを見極める目が必要なのです。

あなたが今、何かに迷っているなら、一度立ち止まって考えてみてください。その複数の選択肢の中で、本当に心から望んでいるのはどれでしょうか。全部手に入れたい気持ちは分かりますが、人生には時間という限りがあります。

大切なのは、諦めることを恐れないことです。一つを選ぶということは、他を諦めることでもありますが、それは決して負けではありません。むしろ、自分の価値観を明確にし、本当に大切なものに全力を注ぐ勇気なのです。

一点集中することで得られる達成感や充実感は、中途半端に複数のことをやっているときには味わえない特別なものです。あなたの人生という限られた時間を、最も価値のあることに使ってください。きっと、想像以上の成果と満足感を得られるはずです。

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