無い時の辛抱、有る時の倹約の意味・由来・使い方|日本のことわざ解説

ことわざ

無い時の辛抱、有る時の倹約の読み方

ないときのしんぼう、あるときのけんやく

無い時の辛抱、有る時の倹約の意味

このことわざは、貧しい時は我慢して耐え忍び、豊かになった時こそ無駄遣いを控えて節約すべきだという教えです。人生には浮き沈みがあり、苦しい時期もあれば恵まれた時期もあります。困窮している時に辛抱するのは当然のように思えますが、このことわざの真髄は後半にあります。お金や物に余裕ができた時こそ、気を緩めずに倹約を心がけなさいと説いているのです。

人は豊かになると気が大きくなり、つい財布の紐が緩みがちです。しかし、良い時がいつまでも続く保証はありません。今日の豊かさが明日も続くとは限らないからこそ、余裕がある時にこそ蓄えを作り、無駄を省く姿勢が大切なのです。このことわざは、人生の波を乗り越えるための実践的な知恵として、特に家計を守る立場の人々や、事業を営む人々の間で使われてきました。

由来・語源

このことわざの明確な文献上の初出は定かではありませんが、江戸時代の庶民の生活の中で育まれた知恵だと考えられています。当時の日本社会は農業を基盤としており、豊作と凶作が人々の生活を大きく左右していました。収穫の多い年もあれば、天候不順で食べるものにも困る年もある。そんな不安定な暮らしの中で、人々は生き延びるための知恵を言葉にして伝えてきたのです。

このことわざは二つの対照的な状況を並べる構造になっています。「無い時」と「有る時」という対比、そして「辛抱」と「倹約」という二つの異なる態度。興味深いのは、どちらの状況でも我慢や節制が求められている点です。貧しい時だけでなく、豊かな時にも自制が必要だという教えは、人間の本質をよく理解した先人の洞察と言えるでしょう。

江戸時代の商家では「始末」という言葉が重んじられ、無駄を省き、物を大切にする精神が家訓として受け継がれました。このことわざも、そうした実践的な生活哲学の一つとして、口伝えで広まっていったと推測されます。長い歴史の中で磨かれた、生活の知恵が凝縮された言葉なのです。

使用例

  • ボーナスが出たからって散財せず、無い時の辛抱有る時の倹約で貯金しておこう
  • 今は売上好調だけど、無い時の辛抱有る時の倹約の精神で経費を見直すべきだ

普遍的知恵

このことわざが語る真理は、人間の心理の本質を突いています。私たちは苦しい時には自然と我慢できるものです。選択肢がないからです。しかし本当に難しいのは、余裕がある時に自分を律することなのです。

人間には「今が永遠に続く」と錯覚してしまう性質があります。心理学で言う「正常性バイアス」に近いものです。好調な時ほど、その状態が当たり前だと感じ、危機感を失ってしまう。株価が上がり続ければ「もっと上がる」と思い込み、収入が増えれば「これからもずっと増える」と信じてしまう。この錯覚こそが、多くの人を転落させてきた原因なのです。

先人たちは、この人間の弱さをよく理解していました。だからこそ「有る時の倹約」という、一見矛盾した教えを残したのです。豊かな時にこそ節制する。これは理屈では簡単でも、実行は極めて困難です。なぜなら、それは本能に逆らう行為だからです。

しかし、この逆説的な知恵こそが、長期的な安定と幸福をもたらします。人生は必ず波があります。その波を乗り越えるための備えを、波が穏やかな時にこそ整える。これは時代を超えた生存戦略であり、人類が長い歴史の中で学んできた叡智なのです。

AIが聞いたら

物理学では、閉じた系のエントロピー、つまり乱雑さは時間とともに必ず増えていきます。部屋を掃除しなければ散らかるように、秩序を保つには常にエネルギーを注ぎ込む必要があるのです。実は家計も全く同じ構造を持っています。

お金がない時に辛抱するのは、低エントロピー状態、つまり整った状態を保つための準備期間です。そしてお金がある時の倹約こそが、エントロピー増大に抗うための継続的なエネルギー投入に当たります。たとえば年収500万円の人が毎月5万円貯金すると、10年で600万円になります。しかし倹約というエネルギー投入をやめた瞬間、生活費は自然に膨張します。これは物理法則として避けられません。

興味深いのは、富裕層ほどこの「抗エントロピー活動」を習慣化している点です。彼らは収入の増加に比例して支出を増やさない、つまり常にエネルギーを投入し続けることで低エントロピー状態を維持します。一方、宝くじ当選者の約70パーセントが5年以内に破産するという統計がありますが、これは一時的な秩序(大金)に対して継続的なエネルギー投入(倹約習慣)がないため、エントロピーが急激に増大した結果なのです。

貧困の連鎖も同じ原理で説明できます。低収入では抗エントロピー活動に回すエネルギー自体が不足し、システムは自然に乱れていくのです。

現代人に教えること

このことわざが現代のあなたに教えてくれるのは、人生のリズムを理解することの大切さです。今、あなたが順調な時期にいるなら、それは喜ばしいことです。でも、その幸運を当たり前だと思わないでください。今日の余裕が、明日の困難を乗り越える力になるのです。

具体的には、収入の一定割合を必ず貯蓄に回す習慣を作ることです。ボーナスが出た時、昇給した時、臨時収入があった時。そんな時こそ、この言葉を思い出してください。全額を使い切るのではなく、未来の自分への投資として一部を確保するのです。

逆に、今が苦しい時期なら、それは永遠には続きません。辛抱する今の経験が、あなたを強くしています。そして次に豊かな時が来た時、その価値をより深く理解できるはずです。

人生は波です。その波を上手に乗りこなすコツは、良い時に調子に乗らず、悪い時に希望を失わないこと。このことわざは、そんなバランス感覚を教えてくれる、あなたの人生の羅針盤になるでしょう。

コメント

世界のことわざ・名言・格言 | Sayingful
Privacy Overview

This website uses cookies so that we can provide you with the best user experience possible. Cookie information is stored in your browser and performs functions such as recognising you when you return to our website and helping our team to understand which sections of the website you find most interesting and useful.