之を亡地に投じて然る後に存すの意味・由来・使い方|日本のことわざ解説

ことわざ

之を亡地に投じて然る後に存すの読み方

これをぼうちにとうじてしかるのちにそんす

之を亡地に投じて然る後に存すの意味

このことわざは、絶体絶命の状況に置かれて初めて生き残る道が見つかるという意味を持っています。逃げ場がなく、もう後がないという極限状態に追い込まれたとき、人は普段は発揮できない力を引き出し、思いもよらない解決策を見出すことができるのです。

このことわざが使われるのは、困難な状況に直面している人を励ますときや、あえて厳しい環境に身を置く決断をした人の心境を説明するときです。安全な逃げ道があると人は本気になれませんが、退路を断たれることで、かえって生き残るための創意工夫が生まれ、隠れていた能力が開花するという人間の不思議な性質を表現しています。現代でも、起業や挑戦において、あえて後戻りできない状況を作ることで成功を掴む人々の姿に、このことわざの真理を見ることができます。

由来・語源

このことわざは、中国の古典兵法書である「孫子」の一節に由来すると考えられています。「孫子」は紀元前5世紀頃に書かれた兵法書で、戦いにおける戦略や心理を説いた書物として知られています。

原文では「投之亡地然後存」という表現が用いられており、これが日本に伝わって「之を亡地に投じて然る後に存す」という形で定着したと言われています。「亡地」とは、逃げ場のない絶望的な場所を意味します。孫子は、兵士たちを退路のない場所に置くことで、かえって必死に戦い、生き残る力を引き出せると説きました。

この考え方の背景には、人間は安全な逃げ道があると本気を出せないという人間心理の洞察があります。背水の陣という言葉も同様の思想から生まれていますが、こちらは具体的な戦いの陣形を指すのに対し、「之を亡地に投じて然る後に存す」は、より広く絶体絶命の状況における人間の潜在能力の発揮を表現しています。古代中国の戦場での経験から生まれた知恵が、時代を超えて人生全般の教訓として受け継がれてきたのです。

使用例

  • 会社を辞めて起業すると決めたら、之を亡地に投じて然る後に存すで、予想以上の力が出せた
  • 彼は留学先で一人になって初めて語学力が伸びた、まさに之を亡地に投じて然る後に存すだね

普遍的知恵

人間には不思議な力が備わっています。それは、逃げ場がなくなったときに初めて目覚める力です。なぜ私たちは追い詰められて初めて本気になれるのでしょうか。

それは、人間が本能的に安全を求める生き物だからです。選択肢があるとき、私たちは無意識のうちに楽な道、安全な道を選ぼうとします。失敗しても戻れる場所があると思えば、どこか心に余裕が生まれ、全力を出し切ることができません。しかし、退路を断たれた瞬間、私たちの脳は生存モードに切り替わります。もう逃げられない、ここで何とかするしかないと悟ったとき、眠っていた創造性が目覚め、普段は思いつかない解決策が浮かんでくるのです。

このことわざが何千年も語り継がれてきたのは、人間のこの性質が時代を超えて変わらないからです。古代の戦場でも、現代のビジネスの世界でも、人は同じように追い詰められたときに真の力を発揮します。先人たちは、人間の可能性は安全な場所では開花しないことを見抜いていました。危機こそが人を成長させ、絶望こそが希望を生み出す。これは人間という存在の根源的な真理なのです。

AIが聞いたら

平衡状態にあるシステムは実は死んでいるも同然です。コップの中の水は安定していますが、何も生み出しません。散逸構造理論によれば、システムが新しい秩序を獲得するには、平衡から遠く離れた極限状態が必要なのです。

具体例を見てみましょう。水を熱すると、最初は静かに温度が上がるだけです。しかし沸点という臨界点に達した瞬間、突然対流という美しい六角形のパターンが現れます。これをベナール対流と呼びます。システムが限界まで追い込まれたとき、バラバラだった水分子が突然協調し始め、秩序だった構造を作るのです。このとき系は熱というエントロピーを外部に放出しながら、内部の秩序を高めています。

生命そのものがこの原理で誕生しました。原始地球という過酷な環境、つまり亡地において、化学物質は激しいエネルギーの流れにさらされ続けました。その極限状態が、単純な分子から複雑な生命体への相転移を引き起こしたのです。

企業でも同じ現象が観察されます。倒産寸前まで追い込まれた組織が、突然イノベーションを起こして変革する例は多数あります。安定した大企業が変われないのは、平衡状態に近すぎるからです。亡地という非平衡状態こそが、システムに質的な飛躍をもたらす物理的条件なのです。

現代人に教えること

このことわざは、現代を生きる私たちに大切なことを教えてくれます。それは、本当の力は安全地帯の外にあるということです。

あなたは今、何かに挑戦したいけれど、失敗したときの逃げ道を確保しようとしていませんか。もちろん、無謀な挑戦は避けるべきですが、いつまでも保険をかけ続けていては、本当の自分の可能性には出会えません。起業したいなら会社を辞める、新しい技術を学びたいなら古い方法を捨てる、変わりたいなら今の環境から飛び出す。そうした決断が、あなたの中に眠る力を呼び覚ますのです。

大切なのは、絶体絶命の状況を恐れるのではなく、それを成長のチャンスと捉える視点です。追い詰められたとき、人は本当に創造的になれます。今まで見えなかった解決策が見え、使ったことのない能力が目覚めます。あなたの中には、まだ発揮されていない素晴らしい力が眠っているのです。その力を引き出すには、時として自分を崖っぷちに立たせる勇気が必要なのかもしれません。

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