功成り名遂げて身退くは天の道なりの意味・由来・使い方|日本のことわざ解説

ことわざ

功成り名遂げて身退くは天の道なりの読み方

こうなりなをとげてみしりぞくはてんのみちなり

功成り名遂げて身退くは天の道なりの意味

このことわざは、成功を収め、名声を得たならば、その地位に固執せず、自ら身を引くことが自然の摂理に適った生き方であるという意味です。

人は成功すると、その地位や権力にしがみつきたくなるものです。しかし、このことわざは、むしろ頂点に達したときこそ、潔く退く勇気を持つべきだと教えています。それが「天の道」、つまり自然の理に適った行動だというのです。

このことわざを使うのは、引き際の美学を語るときや、権力の座に長く居座る人を諫めるときです。また、自分自身が成功を収めたときに、謙虚さを忘れないための戒めとしても用いられます。

現代でも、企業のトップが適切な時期に後進に道を譲ることや、スポーツ選手が全盛期に引退を決断することなどに、この精神を見ることができます。満ち足りたときに退くことで、美しい余韻を残し、次の世代に機会を与えることができるのです。

由来・語源

このことわざは、中国の古典『老子』に由来すると考えられています。『老子』第九章には「功成り名遂げて身退くは、天の道なり」という一節があり、これがそのまま日本のことわざとして定着したものです。

老子は紀元前6世紀頃の中国の思想家で、道教の始祖とされる人物です。彼の思想の核心には「無為自然」という考え方があります。これは、人為的な作為を避け、自然の流れに従って生きることの大切さを説くものでした。この思想の中で、老子は権力や名声への執着を戒め、適切な時期に身を引くことの重要性を繰り返し説いています。

「功成り名遂げて身退く」という表現は、まさにこの老子の思想を凝縮したものと言えるでしょう。成功を収め、名声を得た後も、その地位に固執せず、潔く身を引くことこそが、自然の理に適った生き方であるという教えです。

日本には古くから中国の古典が伝わり、特に江戸時代には儒学とともに老荘思想も広く学ばれました。このことわざも、そうした文化交流の中で日本人の心に深く根付いていったと考えられます。権力の座から自ら降りることの美学は、日本の武士道精神とも共鳴し、多くの人々に受け入れられてきたのです。

使用例

  • 社長は会社を業界トップに育て上げた後、功成り名遂げて身退くは天の道なりと言って、若い後継者に経営を任せた
  • 彼はオリンピックで金メダルを取った翌年に引退したが、まさに功成り名遂げて身退くは天の道なりを体現した決断だった

普遍的知恵

人間には不思議な性質があります。何かを手に入れるまでは必死に努力するのに、いざ手に入れると、それを手放すことが怖くなってしまうのです。地位、名声、権力。これらは獲得するよりも、手放すことの方がはるかに難しいものです。

なぜでしょうか。それは、私たちが成功を「自分自身」と同一視してしまうからです。社長という肩書きが自分だと思い込み、チャンピオンという称号が自分の価値だと信じてしまう。だから、それを失うことは、自分自身を失うことのように感じられるのです。

しかし、自然界を見てください。満月は必ず欠け、満潮は必ず引き潮になります。花は満開の後に散り、果実は熟した後に木から落ちます。これは衰退ではなく、自然のサイクルなのです。散った花は種を残し、落ちた果実は新しい木を育てます。

人間の営みも同じです。頂点に達したら退くことで、次の世代に機会が生まれ、新しいサイクルが始まります。このことわざが何千年も語り継がれてきたのは、人間が本能的に「しがみつきたい」という欲望を持ちながらも、同時に「潔く去る美しさ」を理解しているからでしょう。引き際の美学は、人間だけが持つ高度な知恵なのです。

AIが聞いたら

頂点に立った人物や組織は、実は物理法則の観点から見ると極めて不安定な状態にあります。エントロピーの法則では、秩序だった状態は自然に崩れていく方向に進みます。たとえば氷が溶けて水になり、やがて蒸発するように、整った構造ほど維持にエネルギーが必要なのです。

成功した組織を考えてみましょう。トップの地位を保つには、常に新しい情報を取り入れ、競争相手を抑え、内部の統制を維持しなければなりません。この「秩序の維持コスト」は時間とともに加速度的に増大します。なぜなら、周囲の環境は常に変化し続け、無秩序さを増していくからです。つまり、自分の秩序を保つために、より多くのエネルギーを外部から奪い取る必要が生じます。

ここで興味深いのは、自ら退くという行為の物理的意味です。高エントロピー状態(無秩序な状態)に自発的に移行することで、系全体のエネルギー消費を劇的に減らせます。これは冷蔵庫のスイッチを切るようなものです。無理に冷やし続けるより、室温に戻る方が全体としては安定するのです。

古代の賢者たちは、この熱力学的真理を直感的に理解していたのかもしれません。永続する系とは、低エントロピー状態に執着しない柔軟な系なのです。

現代人に教えること

このことわざが現代のあなたに教えてくれるのは、人生には「手放す勇気」が必要だということです。私たちは何かを得ることばかりに夢中になりがちですが、本当の成熟とは、適切なタイミングで手放せることなのかもしれません。

あなたが今、何かのリーダーであるなら、いつか必ず来る「引き際」を意識してください。それは敗北ではなく、完成です。プロジェクトを成功させたら、次の人にバトンを渡す。部活動で結果を出したら、後輩に道を譲る。仕事で成果を上げたら、新しい挑戦に向かう。そうすることで、あなた自身も成長し続けることができます。

大切なのは、肩書きや地位に自分の価値を求めないことです。あなたの価値は、あなた自身の中にあります。だからこそ、何かを手放しても、あなたは何も失わないのです。

引き際の美しさを知っている人は、周囲から尊敬されます。そして何より、自分自身を自由にすることができます。次のステージへ進む準備ができたとき、潔く身を引く。それは終わりではなく、新しい始まりなのです。

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