疵に玉の意味・由来・使い方|日本のことわざ解説

ことわざ

疵に玉の読み方

きずにたま

疵に玉の意味

「疵に玉」は、欠点や傷があるものでも、他に優れた点や美しい部分があるという意味を表すことわざです。完璧ではないけれど、その中に光るものがあることを認める表現として使われます。

このことわざを使う場面は、人や物事の評価をする時です。表面的な欠点だけを見て全体を否定するのではなく、良い面にも目を向けようという姿勢を示す時に用いられます。たとえば、性格に難があっても才能がある人物を評価する際や、見た目は良くないけれど品質が優れている商品について語る時などに使われます。

現代では、完璧主義に陥りがちな社会において、この表現は重要な意味を持ちます。誰にでも欠点はあるという前提に立ち、その上で長所を見出そうとする寛容な視点を表しています。短所と長所は表裏一体であり、欠点があることが必ずしも全体の価値を損なうわけではないという、バランスの取れた物の見方を教えてくれることわざです。

由来・語源

「疵に玉」ということわざの由来については、明確な文献上の記録は残されていないようですが、言葉の構成から興味深い考察ができます。

このことわざは「玉に瑕(きず)」という表現を逆転させたものと考えられています。「玉に瑕」は美しい宝石にわずかな傷があることを表す言葉で、完璧に近いものにも欠点があるという意味で古くから使われてきました。

一方、「疵に玉」はその逆の視点を示しています。傷や欠点がある石の中にも、美しい玉が含まれているという発想です。同じ事象を見る角度を変えることで、まったく異なる意味が生まれるという日本語の面白さが表れています。

この表現が生まれた背景には、日本の伝統的な美意識が影響していると考えられます。完璧さだけを求めるのではなく、欠点の中にも価値を見出そうとする姿勢は、茶道における「侘び寂び」の思想にも通じるものがあります。傷があるからこそ、その中に光る美しさがより際立つという考え方です。

言葉の構造としても、「疵」という否定的な要素と「玉」という肯定的な要素を並置することで、物事の二面性を端的に表現しています。この対比の妙が、ことわざとして人々の心に残り、語り継がれてきた理由なのでしょう。

使用例

  • 彼は口は悪いけど仕事の腕は確かだから、まさに疵に玉だね
  • この古い家は傷みもあるが構造はしっかりしていて、疵に玉というところだ

普遍的知恵

「疵に玉」ということわざが長く語り継がれてきた理由は、人間の本質的な不完全さと、それでも価値を見出そうとする心の働きを捉えているからでしょう。

人間は誰しも完璧ではありません。欠点のない人など存在しないという事実を、私たちは日々の生活の中で実感しています。しかし同時に、人は他者を評価する時、つい欠点ばかりに目が行ってしまう傾向があります。一つの失敗や短所が見えると、その人の全体を否定してしまいたくなる心理が働くのです。

このことわざが示す知恵は、そうした人間の偏った見方に対する戒めであり、同時に希望でもあります。欠点があっても、その中に必ず光るものがあるという視点は、他者への寛容さを生み出すだけでなく、自分自身を受け入れる力にもなります。

先人たちは、完璧を求めすぎることの危うさを知っていました。完璧主義は人を追い詰め、他者への批判を厳しくし、自分への評価も苛烈にします。そうではなく、傷の中にある玉を見つける目を持つこと。それこそが、人間関係を豊かにし、社会を寛容にする知恵なのです。

この普遍的な真理は、時代が変わっても色あせることはありません。むしろ、SNSで他者の欠点が瞬時に拡散される現代だからこそ、この視点の大切さが増しているとも言えるでしょう。

AIが聞いたら

材料工学では、傷があると破壊力が何倍にも増幅される現象が知られています。たとえば、ガラス板に髪の毛ほどの細い傷をつけると、その先端部分には平均の3倍から10倍もの力が集中します。これを応力集中係数といいます。傷が鋭く深いほど、この数値は跳ね上がります。つまり、傷の大きさが2倍になっても、破壊への影響は2倍では済まず、場合によっては10倍以上になるのです。

この非線形的な増幅が重要なポイントです。99パーセント完璧な製品でも、残り1パーセントの欠陥部分に想定外の負荷がかかり、そこから亀裂が広がって全体が壊れます。航空機の窓から始まった小さな亀裂が機体全体の崩壊につながった事故は、まさにこの原理を示しています。

人の評価も同じ構造を持っています。優れた実績が10個あっても、1つの不祥事があると、そこに注目が集中し、批判のエネルギーが何倍にも増幅されます。人間の認知には「ネガティブバイアス」があり、悪い情報を良い情報の3倍から5倍重く評価するという研究結果もあります。傷の先端に力が集まるように、欠点に注目が集まり、そこから評価全体が崩れていく。材料の破壊メカニズムは、社会的評価の脆さを物理法則として説明しているのです。

現代人に教えること

「疵に玉」が現代を生きる私たちに教えてくれるのは、不完全さの中に価値を見出す勇気です。

現代社会は、SNSやメディアを通じて、完璧に見える人や物事ばかりが目に入ってきます。その中で、自分の欠点や他者の短所ばかりが気になってしまうのは自然なことです。しかし、このことわざは、そうした一面的な見方から解放されるヒントを与えてくれます。

あなた自身について考えてみてください。欠点があるからといって、あなたの価値が失われるわけではありません。その欠点の隣には、必ずあなたならではの強みや魅力があるはずです。完璧を目指して自分を責め続けるのではなく、傷の中にある玉を認めることから始めてみませんか。

他者との関わりにおいても同じです。誰かの欠点が目についた時、そこで評価を止めるのではなく、その人の持つ良さにも目を向けてみる。そうした姿勢が、人間関係を豊かにし、チームの力を引き出すことにつながります。

この知恵を実践することは、より寛容で温かい社会を作ることにもつながります。欠点を含めて人を受け入れる。それは弱さを認めることではなく、本当の強さなのです。

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