貴は驕と期せずして驕自ずから来るの読み方
きはおごりときせずしておごりおのずからきたる
貴は驕と期せずして驕自ずから来るの意味
このことわざは、高い地位にある者は知らず知らずのうちに傲慢になりやすいという人間の性質を指摘し、戒めるものです。重要なのは「期せずして」という部分で、本人が意図的に傲慢になろうとしているわけではないという点です。むしろ、地位や権力を持つことで、周囲から特別扱いされ、批判されることが少なくなり、自然と謙虚さを失っていくという構造を示しています。
このことわざは、主に権力者や指導的立場にある人への警告として使われます。また、昇進した人や成功を収めた人に対して、謙虚さを忘れないよう助言する際にも用いられます。現代では、企業の経営者、政治家、あるいは組織のリーダーなど、影響力のある立場にある人々に当てはまる教訓として理解されています。地位が人を変えてしまう危険性を、私たちに思い起こさせてくれる言葉なのです。
由来・語源
このことわざの明確な出典については諸説ありますが、中国の古典思想、特に儒教の教えの影響を受けていると考えられています。「貴」は高い地位や身分を、「驕」は傲慢さや思い上がりを意味する言葉です。
「期せずして」という表現は、意図しない、約束していないという意味で、「自ずから来る」は自然に訪れるという意味を持ちます。つまり、この言葉全体で「高い地位にある者は、傲慢になろうと思わなくても、自然と傲慢になってしまう」という構造になっています。
古来より、権力者や高位の者が堕落していく様子は、多くの歴史書や教訓書で語られてきました。儒教では特に、地位ある者の徳を重視し、権力を持つ者こそ謙虚であるべきだと説いています。このことわざは、そうした東洋の政治思想や人間観察の伝統の中で生まれたと推測されます。
日本では、武士階級が支配者となった時代に、こうした戒めの言葉が特に重要視されました。権力を持つ者が傲慢になれば、民衆の信頼を失い、やがて自らの地位も危うくなる。そんな歴史の教訓が、この短い言葉に凝縮されているのです。
使用例
- 部長になってから周りの意見を聞かなくなったのは、まさに貴は驕と期せずして驕自ずから来るだね
- 彼女は成功してから態度が変わったけれど、本人は気づいていないのだろう、貴は驕と期せずして驕自ずから来るというからね
普遍的知恵
このことわざが語る真理は、人間の心理構造の本質を突いています。なぜ地位ある者は傲慢になりやすいのでしょうか。それは、環境が人の自己認識を変えてしまうからです。
高い地位に就くと、周囲の人々の態度が変わります。批判されることが減り、賞賛されることが増える。意見を言えば通りやすくなり、失敗しても責められにくくなる。こうした環境の中で、人は自分が特別な存在だと錯覚し始めます。しかも恐ろしいのは、本人がその変化に気づかないことです。
このことわざが「期せずして」という言葉を使っているのは、まさにこの無自覚性を指摘しているのです。傲慢になろうと決意する人はいません。誰もが謙虚でありたいと思っています。しかし、環境が人を静かに、確実に変えていく。この見えない変化こそが、最も危険なのです。
古今東西、権力者の堕落は繰り返されてきました。それは個人の資質の問題ではなく、地位という環境が持つ構造的な危険性なのです。先人たちはこの人間の弱さを見抜き、警告として言葉に残しました。謙虚さは意識的に守らなければ失われる。それが、このことわざが伝える深い人間理解なのです。
AIが聞いたら
富が人に集まると、それは閉じた系に高密度のエネルギーが注入された状態と似ている。物理学では、エネルギーが集中した系は必ず無秩序な方向へ進む。たとえば、熱いコーヒーは放っておけば必ず冷めるし、整理した部屋は自然と散らかる。これがエントロピー増大の法則だ。
興味深いのは、富という「選択肢のエネルギー」も同じ原理で動く点だ。貧しい時は選択肢が限られているため、行動は必然的に秩序を保つ。毎日同じ道を歩き、同じ店で買い物をする。ところが富を得ると、選択肢が爆発的に増える。どこへでも行ける、何でも買える、誰とでも会える。この状態は物理学でいう「自由度の増大」そのものだ。
そして重要なのは、この過程が不可逆的である点だ。熱力学では、一度増えたエントロピーを元に戻すには外部からのエネルギー投入が必要になる。人間も同じで、一度広がった選択肢の中で秩序を保つには、意識的な努力という「外部エネルギー」が必要だ。しかし多くの人はその努力を怠る。なぜなら、無秩序へ向かうのは自然の流れだからだ。
つまり驕りとは、富によって増えた自由度が、最も確率の高い状態、つまり無秩序な方向へ自然に流れた結果なのだ。意図しなくても驕りが来るのは、宇宙の基本法則に従っているだけなのである。
現代人に教えること
このことわざが現代のあなたに教えてくれるのは、成功や昇進は喜ばしいことである一方で、自分を見失う危険性も伴うということです。大切なのは、地位が上がったときこそ、意識的に謙虚さを保つ努力をすることです。
具体的には、定期的に自分を振り返る時間を持つこと。信頼できる人からの率直な意見を求めること。そして、地位は一時的に預かっているものであり、自分自身の価値とは別物だと理解することです。
また、このことわざは、リーダーシップを発揮する立場にない人にとっても意味があります。周囲に権力を持つ人がいるとき、その人が傲慢になっていくのは自然な流れだと理解できれば、冷静に対処できます。個人攻撃ではなく、構造的な問題として捉えることができるのです。
あなたがどんな立場にいても、この教訓は活かせます。小さな成功でも人は変わりうる。だからこそ、常に初心を忘れず、周囲への感謝と敬意を持ち続けることが、真の成長につながるのです。


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