傾国の意味・由来・使い方|日本のことわざ解説

ことわざ

傾国の読み方

けいこく

傾国の意味

「傾国」とは、その美しさが国を傾けるほど絶世の美女、または国を滅ぼすほどの美貌を持つ女性を指す言葉です。

この表現は、単に美しいというレベルを超えて、君主や権力者がその美貌に心を奪われ、政治を顧みなくなるほどの圧倒的な美しさを表現しています。つまり、個人の美しさが国家の運命を左右するほどの影響力を持つという、極限的な美貌の比喩なのです。

使用場面としては、歴史上の美女や、それに匹敵するほどの絶世の美女を形容する際に用いられます。ただし、現代では実際の政治的影響を意味するのではなく、「それほどまでに美しい」という最上級の美の表現として理解されています。この言葉を使う理由は、通常の美しさを表す言葉では表現しきれないほどの、圧倒的で危険なまでの美貌を強調したいからです。現代でも、芸能界や文学の世界で、特別に美しい女性を表現する際の最高級の褒め言葉として使われることがあります。

由来・語源

「傾国」の由来は、中国の古典文学にその源を求めることができます。この言葉は、もともと中国の史書や詩文において、美しい女性の美貌が君主を惑わし、国を傾けるほどの力を持つという意味で使われていました。

特に有名なのは、中国の詩人李延年が漢の武帝に献上した詩「北方有佳人」です。この詩には「一顧傾人城、再顾傾人国」(一度振り返れば城を傾け、再び振り返れば国を傾ける)という表現があり、これが「傾国」という言葉の直接的な語源とされています。この詩は、李延年の妹である李夫人の美しさを歌ったもので、実際に武帝は彼女に深く心を奪われました。

日本には中国の古典文学とともに伝来し、平安時代の文学作品にもこの概念が見られるようになります。当時の貴族社会では、中国の古典に通じることが教養の証とされていたため、「傾国」という表現も知識人の間で使われるようになったと考えられます。

興味深いのは、この言葉が単なる美貌の賛美ではなく、政治的な警鐘としての意味も含んでいたことです。古代中国では、君主が女色に溺れることで国政が乱れるという歴史的教訓があり、「傾国」はその戒めの意味も込められていました。

豆知識

「傾国」という言葉が生まれるきっかけとなった李夫人は、実は踊り子出身でした。兄の李延年が宮廷音楽家として仕えていた縁で宮中に入り、漢の武帝の寵愛を受けましたが、若くして病死してしまいます。武帝は彼女を深く愛し続け、死後も忘れることができませんでした。

日本の古典文学では、「傾国」の概念は「傾城」という言葉とセットで使われることが多く、「傾城傾国」として四字熟語にもなっています。城も国も傾けるという意味で、段階的に美貌の影響力を表現した巧妙な言葉の組み合わせなのです。

使用例

  • 彼女の美しさはまさに傾国の美女と呼ぶにふさわしい
  • 映画女優として傾国の美貌で一世を風靡した

現代的解釈

現代社会において「傾国」という概念は、複雑な変化を遂げています。かつては政治的権力と結びついた美貌の危険性を表現していましたが、今日では主に芸能界やメディアの世界で使われる美の最上級表現として理解されています。

SNSやインターネットの普及により、美の基準や影響力の在り方も大きく変わりました。現代の「傾国の美女」は、政治的権力者を惑わすのではなく、数百万のフォロワーを魅了し、ブランドの売上を左右し、社会のトレンドを作り出す存在として現れています。インフルエンサーや人気女優が一つの投稿で企業の株価を動かすことさえある時代です。

また、現代では美の多様性が重視され、画一的な美の基準に疑問が投げかけられています。「傾国」という言葉が持つ、男性中心的な視点からの美女観についても、フェミニズムの観点から再考されることが増えています。女性の価値を外見の美しさだけで測ることへの批判的な声も上がっています。

しかし一方で、この言葉が持つ詩的な美しさや、極限的な美への憧憬は、現代人の心にも響き続けています。美容技術の発達により、多くの人が「傾国」レベルの美しさを追求できる時代になったことで、この古典的な表現が新たな意味を持ち始めているのかもしれません。

AIが聞いたら

「傾国」の語源である中国古典『詩経』の「一顧傾人城、再顧傾人国」は、美女の一瞥が城を、二度目の瞥が国を傾けるという意味ですが、これは現代のインフルエンサー現象と驚くほど似た構造を持っています。

古代中国では、楊貴妃や妲己といった美女が皇帝の判断力を鈍らせ、国政を混乱させました。現代では、フォロワー数百万人のインフルエンサーが一つの投稿で企業の株価を動かし、政治的意見を発信して選挙結果に影響を与えています。2021年のGameStop株騒動では、個人投資家がSNSで呼びかけただけで巨大ヘッジファンドが数千億円の損失を出しました。

両者に共通するのは「魅力的な個人への感情的な共感が、合理的な判断を上回る」という人間心理です。古代の皇帝も現代のフォロワーも、論理よりも感情で行動を決めてしまいます。心理学では「ハロー効果」と呼ばれる現象で、一つの魅力的な特徴(美貌やカリスマ性)が他の判断すべてを歪めてしまうのです。

「傾国」は単なる美女の話ではなく、個人の影響力が集団の意思決定システムを破綻させる普遍的なリスクを表現した概念だったのです。SNS時代の今こそ、この古典的知恵の価値が再認識されるべきでしょう。

現代人に教えること

「傾国」という言葉が現代の私たちに教えてくれるのは、美しさの持つ力の大きさと、それに対する適切な距離感の大切さです。美しいものに心を奪われることは人間として自然なことですが、それに溺れすぎて大切なものを見失ってはいけないという古くからの知恵が込められています。

現代社会では、SNSやメディアを通じて美しいものが溢れています。そんな中で「傾国」の教訓は、外見の美しさだけに価値を置きすぎることの危険性を教えてくれます。美しさを愛でることは素晴らしいことですが、それが全てではないということを忘れずにいたいものです。

また、この言葉は美しさそのものの価値も教えてくれます。国を傾けるほどの美しさとは、それだけ人の心を動かす力があるということ。美しいものを創造し、それを大切にすることの意味を、私たちに思い出させてくれるのです。

あなたも日々の生活の中で美しいものに出会ったとき、その力を感じながらも、バランスの取れた心で接していけば、きっと人生がより豊かになることでしょう。

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