行きはよいよい帰りは怖いの意味・由来・使い方|日本のことわざ解説

ことわざ

行きはよいよい帰りは怖いの読み方

いきはよいよいかえりはこわい

行きはよいよい帰りは怖いの意味

このことわざは、物事を始めるときは簡単で気楽に感じられても、後になって困難や危険が待ち受けているという意味を表しています。出発時や着手時には気分も軽く、問題も見えていないため、つい安易に考えてしまいがちです。しかし実際には、進めていくうちに予想外の障害に直面したり、最初の勢いが失われて苦労したりすることが多いものです。

このことわざを使うのは、軽い気持ちで物事を始めようとしている人に注意を促す場面や、実際に後から困難に直面して後悔している状況を表現するときです。借金、安易な約束、計画性のない行動など、始めるのは簡単でも後始末が大変なことについて警告する際によく用いられます。現代でも、クレジットカードの使いすぎや、深く考えずに引き受けた仕事などに対して、この教訓は十分に当てはまります。

由来・語源

このことわざの明確な文献上の初出は定かではありませんが、江戸時代には既に庶民の間で広く使われていたと考えられています。興味深いのは、この言葉が「行きはよいよい」という軽快なリズムで始まる点です。「よいよい」という繰り返しは、調子よく進んでいく様子を音で表現しており、まるで鼻歌でも歌いながら気軽に出かけていく人の姿が目に浮かぶようです。

この表現が生まれた背景には、江戸時代の人々の生活実感があったと推測されます。当時の旅は現代とは比べものにならないほど大変なものでした。出発するときは希望に満ち、気持ちも軽やかですが、目的地で用事を済ませた後の帰り道では、疲労が蓄積し、日も暮れて道も見えにくくなります。さらに、所持金も減っているかもしれません。

特に山道や峠を越える旅では、行きは下り坂で楽でも、帰りは登り坂になるという物理的な事実もありました。このような具体的な旅の経験が、やがて人生全般の教訓として昇華されていったのでしょう。軽い気持ちで始めたことが、後になって思わぬ困難を招くという普遍的な真理を、日本人は旅の体験を通じて言葉にしたと考えられています。

豆知識

このことわざは、実は童謡「通りゃんせ」の歌詞にも通じる怖さを持っています。「通りゃんせ」でも「行きはよいよい、帰りは怖い」という一節があり、天神様への参詣は行きは許されても帰りは厳しく問われるという緊張感が歌われています。

また、このことわざの「よいよい」という表現は、江戸時代の掛け声や囃子言葉の影響を受けていると考えられます。祭りや労働の場で使われた「よいよい」というリズミカルな言葉が、軽快に進む様子を表現するのにぴったりだったのでしょう。

使用例

  • 新しいローンを組むのは簡単だけど、まさに行きはよいよい帰りは怖いで、返済が始まったら生活が苦しくなった
  • 飲み会の誘いを安請け合いしたけど、行きはよいよい帰りは怖いというやつで、二次会三次会と付き合わされて終電を逃してしまった

普遍的知恵

このことわざが語り継がれてきた理由は、人間の本質的な心理を鋭く突いているからです。私たち人間は、物事を始めるときには楽観的になりやすい生き物なのです。新しいことへの期待感、まだ見ぬ可能性への希望、そして何より「まだ何も失っていない」という安心感が、判断を甘くさせます。

しかし、いったん動き出してしまえば、後戻りは困難です。時間は経過し、労力は費やされ、周囲への約束も生まれています。そして気づくのです。思っていたより大変だと。予想していなかった問題が次々と現れると。疲れも溜まり、資源も減り、選択肢も狭まっていきます。

この「行き」と「帰り」の対比は、人生における「始まり」と「終わり」の非対称性を見事に表現しています。結婚も、事業も、人間関係も、始めるのは一瞬ですが、その後の維持や解決には長い時間と努力が必要です。人間は未来を完全には予測できません。だからこそ、始める前の慎重さが求められるのです。

先人たちは、この人間の性質を深く理解していました。希望に満ちた出発の瞬間にこそ、帰り道の困難を想像する知恵が必要だと。この教えは、人間が楽観と慎重さのバランスを取りながら生きていくための、永遠の指針なのです。

AIが聞いたら

物理学には興味深い非対称性があります。コップを落として割るのは一瞬ですが、破片から元のコップを復元するのは事実上不可能です。これがエントロピー増大の法則、つまり「物事は自然に無秩序へ向かう」という宇宙の基本ルールです。

このことわざを物理的に考えると、行きと帰りで必要なエネルギーの質が全く違うことに気づきます。坂を登る時は確かに大変ですが、やるべきことは単純です。筋肉を使って一歩ずつ進めばいい。ところが下る時は位置エネルギーが勝手に運動エネルギーに変わり続けます。つまり、放っておけば加速してしまう。ブレーキをかけ続ける必要があるわけです。

さらに重要なのは、この制御にもエネルギーが必要で、しかもそれは熱として散逸してしまう点です。膝や筋肉に負担がかかるのはこのためです。エネルギー保存則では行きも帰りも同じはずなのに、実際には帰りの方が「制御コスト」という見えない負担が大きいのです。

宇宙全体がエントロピー増大に向かう中で、私たちは常に「秩序を保つための制御」を強いられています。上り坂より下り坂の方が事故が多いのも、この物理法則が現実に現れた結果なのです。

現代人に教えること

このことわざが現代のあなたに教えてくれるのは、「始める前に終わりを考える」という習慣の大切さです。新しいことに挑戦するのは素晴らしいことですが、その前に一度立ち止まってみましょう。この約束を守り続けられるか。この支払いを完済できるか。この関係を誠実に維持できるか。

特に現代社会では、ワンクリックで契約が成立し、SNSで気軽に発言でき、簡単に人との繋がりが生まれます。始めるハードルが極端に低くなった今だからこそ、この教訓は重みを増しています。サブスクリプションサービスの解約忘れ、軽い気持ちでの副業開始、安易な転職。どれも「行き」は簡単ですが、「帰り」には想定外の労力が待っています。

でも、これは臆病になれという教えではありません。むしろ、しっかり考えた上で始めたことには、覚悟を持って取り組めるということです。帰り道の困難を想像できていれば、それに備えることもできます。あなたの人生の選択が、より賢明で、より責任あるものになりますように。

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