怒りには則ち理を思い、危うきには義を忘れずの意味・由来・使い方|日本のことわざ解説

ことわざ

怒りには則ち理を思い、危うきには義を忘れずの読み方

いかりにはすなわちりをおもい、あやうきにはぎをわすれず

怒りには則ち理を思い、危うきには義を忘れずの意味

このことわざは、怒った時こそ道理を考え、危険な時も正義を忘れてはならないという意味です。人は感情が高ぶった時や、自分の身に危険が迫った時、つい理性を失いがちです。怒りに任せて相手を傷つける言葉を発したり、自分の安全を守るために正しくない行動を取ったりしてしまうことがあります。しかし、このことわざは、まさにそうした極限状態でこそ、冷静さを保ち、道理や正義を忘れてはいけないと教えています。使用場面としては、感情的になりそうな時に自分を戒める時や、困難な状況で正しい判断を下そうとする時に用いられます。現代社会でも、SNSでの炎上や職場でのトラブル、あるいは自分の利益が脅かされる場面など、理性を失いやすい状況は数多くあります。そうした時にこそ、この言葉を思い出すことで、人としての品格を保つことができるのです。

由来・語源

このことわざは、中国の古典に由来すると考えられています。特に儒教の思想、中でも「論語」や「孟子」などに見られる君子の理想像を表現した言葉として、日本に伝わったという説が有力です。

「怒り」と「危うき」という二つの極限状態を対比させている点が、この言葉の特徴です。怒りは感情が高ぶる状態、危険は生命が脅かされる状態。どちらも人間が理性を失いやすい瞬間ですね。古代中国では、こうした極限状態でこそ人の真価が問われると考えられていました。

「則ち」という言葉は「すなわち」と読み、「まさにその時こそ」という強調の意味を持ちます。つまり、怒った時だからこそ、危険な時だからこそ、という逆説的な教えなのです。

日本では江戸時代の武士道教育の中で、この言葉が重視されたと考えられています。武士は常に命の危険と隣り合わせであり、また主君や同僚との関係で怒りを覚える場面も多かったでしょう。そうした状況下で、感情に流されず正しい判断を保つことが、武士の美徳とされていたのです。この言葉は、単なる自制心を説くだけでなく、人間としての品格を保つことの大切さを教えているのですね。

使用例

  • 部下のミスに腹が立ったが、怒りには則ち理を思い、危うきには義を忘れずと自分に言い聞かせて、まず事実確認から始めた
  • 不正を告発すれば自分の立場が危うくなるが、怒りには則ち理を思い、危うきには義を忘れずの精神で、正しいことを貫こうと決めた

普遍的知恵

人間という生き物は、感情の生き物です。怒りや恐怖といった強い感情が湧き上がった時、私たちの脳は原始的な反応モードに切り替わります。理性的な判断を司る前頭葉の働きが弱まり、本能的な「戦うか逃げるか」の選択に支配されてしまうのです。

このことわざが何百年も語り継がれてきたのは、まさにこの人間の弱さを見抜いていたからでしょう。怒った時こそ冷静になれと言うのは、簡単なようで最も難しいことです。危険な時に正義を貫けと言うのも、生存本能に逆らう行為です。だからこそ、先人たちはこの言葉を残したのです。

興味深いのは、このことわざが「怒るな」「危険を避けろ」とは言っていない点です。怒りも恐怖も、人間として自然な感情です。問題は、その感情に完全に支配されてしまうことなのです。感情を感じながらも、同時に理性を保つ。この二つを両立させることこそが、人間の尊厳なのだと、このことわざは教えています。

極限状態でこそ人の真価が問われる。これは時代が変わっても変わらない真理です。平穏な時に正しくあるのは誰にでもできます。しかし、感情が激しく揺さぶられる時、自分の利益が脅かされる時にこそ、その人の本当の姿が現れるのです。

AIが聞いたら

人間の脳には感情と理性の処理速度に決定的な差があります。扁桃体という部位が危険や侮辱を感知すると、わずか0.2秒で怒りや恐怖の反応を引き起こします。一方、前頭前野が理性的判断を下すには約0.5秒かかる。つまり、感情が先に暴走し始めてから理性が追いつくまでに0.3秒の空白時間が存在するのです。

このタイムラグこそが、このことわざが「思え」「忘れるな」と命令形で語りかける理由です。自動的には理性が勝てない神経回路の構造があるからこそ、意識的な努力が必要になる。現代神経科学では、前頭前野から扁桃体への抑制信号を強化するには、繰り返しの訓練が有効だと分かっています。たとえば怒りを感じた瞬間に深呼吸する習慣をつけると、前頭前野の抑制回路が太く強くなっていく。

興味深いのは、古代の賢者たちが脳の構造を知らないまま、この神経学的弱点を正確に見抜いていた点です。彼らは経験から、感情の初動は止められないが、その直後に意識を介入させれば制御可能だと理解していました。このことわざは単なる道徳訓ではなく、脳の処理速度差を補うための実践的な認知戦略だったのです。0.3秒の空白を埋めるために、人類は2500年前から自分に命令し続けてきました。

現代人に教えること

このことわざが現代のあなたに教えてくれるのは、感情と上手に付き合う知恵です。SNSで誰かの投稿に腹が立った時、すぐに反応する前に一呼吸置いてみる。職場で理不尽な扱いを受けた時、感情的に反論する前に事実を整理してみる。こうした小さな実践が、あなたの人生を大きく変えていきます。

特に現代社会では、即座の反応が求められる場面が増えています。メールやメッセージへの返信、会議での発言、SNSでのコメント。しかし、速さよりも正確さ、反射よりも思慮が、長い目で見れば必ずあなたを守ってくれます。

また、自分の利益が脅かされる場面でも、正しさを見失わないこと。これは理想論ではなく、実は最も賢い生き方なのです。なぜなら、一時的な利益のために正義を曲げれば、あなた自身の心が傷つき、周囲からの信頼も失うからです。

感情は敵ではありません。ただ、感情だけに支配されないこと。理性は冷たいものではありません。むしろ、あなたの人生を守る温かい盾なのです。この二つを両立させることが、真の強さなのですね。

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