はやり事は六十日の意味・由来・使い方|日本のことわざ解説

ことわざ

はやり事は六十日の読み方

はやりごとはろくじゅうにち

はやり事は六十日の意味

「はやり事は六十日」は、流行というものは長続きせず、およそ二ヶ月程度で廃れてしまうという意味のことわざです。世の中で一時的に人気を集めるものごとは、どんなに盛り上がっていても、やがて人々の関心が薄れ、忘れ去られていくという現実を表しています。

このことわざは、流行に振り回されている人に対して冷静さを促す場面や、一時的なブームに過度な期待をしている人を諫める場面で使われます。また、今は不人気でも焦る必要はないと励ます際にも用いられます。「六十日」という具体的な数字を使うことで、流行の儚さをより実感的に伝える効果があります。現代でも、ファッション、音楽、食べ物、インターネット上の話題など、あらゆる分野で次々と流行が生まれては消えていく様子を見ることができます。このことわざは、そうした移り変わりの早い世の中で、物事の本質を見極める大切さを教えてくれる言葉なのです。

由来・語源

このことわざの明確な文献上の初出は特定されていませんが、江戸時代の庶民の間で広く使われていたと考えられています。「六十日」という具体的な数字が使われているところに、このことわざの面白さがあります。

なぜ「六十日」なのでしょうか。これは実際に流行の期間を厳密に測定した結果というより、「二ヶ月程度」という感覚的な期間を表現したものと考えられます。日本では古くから「百日」が長い期間の象徴として使われてきましたが、それに対して「六十日」は「そこそこの期間だが、思ったより短い」という微妙なニュアンスを持つ数字だったのでしょう。

江戸時代は、現代と同じように流行が次々と生まれては消えていく時代でした。髪型、着物の柄、歌舞伎役者の人気、食べ物の流行など、人々は新しいものに飛びつき、そしてすぐに飽きていきました。特に江戸の町人文化が花開いた元禄期以降、こうした流行の移り変わりは加速していったと言われています。そんな中で、人々は流行というものの儚さを観察し、「だいたい二ヶ月くらいで廃れるものだ」という経験則を見出したのではないでしょうか。このことわざには、流行を冷静に見つめる庶民の知恵が込められているのです。

豆知識

江戸時代の流行の移り変わりの速さは、現代のSNS時代にも匹敵するほどだったと言われています。特に江戸の三大改革の一つ、寛政の改革では、あまりにも流行が激しく移り変わることを幕府が問題視し、贅沢禁止令を出したほどでした。人々が次々と新しいものを求める姿は、今も昔も変わらないようです。

「六十日」という期間は、季節の変わり目とも関係していると考えられます。日本には四季があり、およそ三ヶ月ごとに季節が移り変わります。その半分にあたる二ヶ月という期間は、人々が「そろそろ次の季節を意識し始める」タイミングでもあり、自然と関心が移っていく区切りとして実感されやすかったのかもしれません。

使用例

  • あのアイドルグループも一時は大人気だったけど、はやり事は六十日というからね、もう話題にもならなくなった
  • 新商品の売上が急に落ちてきたが、はやり事は六十日だから想定内だ

普遍的知恵

「はやり事は六十日」ということわざには、人間の飽きやすい性質と、それを冷静に見つめる知恵が込められています。なぜ人は新しいものに飛びつき、そしてすぐに飽きてしまうのでしょうか。

人間には「新奇性を求める本能」があります。新しいものは脳に刺激を与え、ドーパミンという快楽物質を分泌させます。しかし、同じ刺激が繰り返されると、脳は慣れてしまい、もはや新鮮さを感じなくなります。これは生存戦略として理にかなっています。常に新しい情報に敏感であることで、環境の変化に適応し、より良い選択肢を見つけることができるからです。

しかし、この本能は時として私たちを振り回します。流行を追いかけることに夢中になり、本当に大切なものを見失ってしまうことがあるのです。先人たちは、こうした人間の性質を何百年も前から見抜いていました。だからこそ、このことわざを残したのでしょう。

流行が移り変わることは悪いことではありません。それは社会が活気に満ちている証拠でもあります。大切なのは、流行に流されるのではなく、流行を客観的に見る目を持つことです。「これは一時的なブームなのか、それとも本当に価値のあるものなのか」を見極める力。それこそが、このことわざが私たちに伝えようとしている普遍的な知恵なのです。

AIが聞いたら

感染症の広がりを数式で表すSIRモデルを見ると、流行が自然に収束するまでの期間は、感染力と人口の接触パターンで決まります。興味深いのは、江戸時代の人々が観察した「六十日」という期間が、実は数学的に導かれる流行曲線とぴったり重なることです。

SIRモデルでは、まだ感染していない人(感受性人口)が減っていくと、ウイルスが次の宿主を見つけにくくなり、自然とピークを迎えて下降します。計算すると、基本再生産数が2から3程度の感染症では、流行開始からピークまで約30日、そこから収束まで約30日、合計60日前後になることが多いのです。これは抗体や治療法がなくても、単純に「もう感染させる相手がいない」という物理的制約で終息します。

さらに驚くのは、SNSでのバズも同じ構造に従うことです。あるネタを見ていない人(感受性人口)が減ると、リツイートは自然に減少します。TikTokの流行ダンスも、YouTubeのチャレンジ動画も、大体1~2ヶ月で熱が冷めるのは偶然ではありません。ウイルスも情報も、伝染する相手が尽きれば必ず収束するという、逃れられない数理法則が働いているのです。

江戸の人々は数式なしで、この普遍的なパターンを見抜いていました。

現代人に教えること

このことわざが現代のあなたに教えてくれるのは、「流行に一喜一憂しない心の強さ」です。SNSを開けば、毎日のように新しいトレンドが生まれ、昨日まで話題だったことが今日はもう古いと言われる時代。そんな中で、流行を追いかけることに疲れていませんか。

大切なのは、流行そのものを否定することではありません。新しいものを楽しむことは人生を豊かにします。しかし、「これは二ヶ月で過ぎ去るものかもしれない」という視点を持つことで、心に余裕が生まれるのです。今、自分が夢中になっているものは、本当に自分の価値観に合っているのか。それとも、周りが騒いでいるから乗っかっているだけなのか。

流行が去った後も残るものこそ、あなたにとって本当に大切なものです。友情、家族との絆、磨いてきた技術、積み重ねた経験。これらは六十日では廃れません。流行という波に乗りながらも、自分の軸をしっかり持つこと。それが、このことわざが現代を生きるあなたに贈るメッセージなのです。

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