重宝を抱く者は以て夜行せずの意味・由来・使い方|日本のことわざ解説

ことわざ

重宝を抱く者は以て夜行せずの読み方

ちょうほうをいだくものはもってやこうせず

重宝を抱く者は以て夜行せずの意味

このことわざは、貴重なものを持つ者は危険を避けて慎重に行動すべきだという教えを表しています。宝物や財産、才能、地位など、価値あるものを持っている人は、それを失うリスクを常に意識し、無用な危険に身をさらすべきではないということです。

使用場面としては、成功している人や優れた能力を持つ人に対して、謙虚さや慎重さを促す際に用いられます。また、重要な情報や資産を扱う立場にある人が、軽率な行動を取ろうとしているときの戒めとしても使われます。

現代では、SNSで自分の成功や財産を過度にアピールすることへの警告としても理解できるでしょう。価値あるものを持つことは素晴らしいことですが、それを不用意に見せびらかせば、妬みを買ったり、悪意ある者に狙われたりする危険性があります。真に賢い者は、自分の持つ価値を守るために、目立たず慎重に振る舞うものだという智恵なのです。

由来・語源

このことわざは、中国の古典『韓非子』に由来すると考えられています。『韓非子』は紀元前3世紀頃に書かれた法家思想の代表的な書物で、その中に「宝を懐く者は以て夜行せず」という一節があるとされています。

「重宝」とは貴重な宝物のことを指し、「抱く」は身に付ける、所持するという意味です。「以て」は「それをもって」という意味で、「夜行」は夜道を歩くことを表しています。つまり、貴重な宝物を持っている者は、それを持ったまま夜道を歩いたりしないという意味になります。

古代中国では、夜道は盗賊や強盗に襲われる危険が高い場所でした。貴重な宝物を持っていることが知られれば、なおさら狙われやすくなります。そのため、賢明な人は大切なものを持っているときには、わざわざ危険な夜道を歩くようなことはしないという教えが生まれたのです。

この考え方は、単に物理的な危険を避けるという意味だけでなく、才能や地位など目に見えない価値あるものを持つ者も、それを誇示せず慎重に行動すべきだという、より広い意味での処世訓として日本にも伝わり、受け継がれてきたと考えられています。

使用例

  • 彼は大きな契約を取ったのに誰にも自慢しないね、重宝を抱く者は以て夜行せずということを知っているんだろう
  • 新しい技術を開発したからといってすぐに公表するのは危険だ、重宝を抱く者は以て夜行せずで、特許を取るまで慎重に進めよう

普遍的知恵

このことわざが語る普遍的な真理は、人間が持つ二つの本質的な性質についてです。一つは、価値あるものを守りたいという本能、もう一つは、それを誇示したいという欲望です。

人は努力して何かを手に入れたとき、それを他者に認めてもらいたいという強い衝動に駆られます。成功を分かち合いたい、評価されたいという感情は、人間の社会的な生き物としての本性から来るものでしょう。しかし同時に、価値あるものは常に他者の羨望や嫉妬、時には悪意の対象となるという現実があります。

古代から現代まで、この矛盾は変わりません。富める者が狙われ、才能ある者が妬まれ、成功者が足を引っ張られる。人間社会には常にこうした暗い側面が存在してきました。だからこそ先人たちは、真の知恵とは自分の持つ価値を適切に隠し、守ることができる力だと気づいたのです。

このことわざが長く語り継がれてきたのは、それが人間の本質的なジレンマを見事に言い当てているからです。見せたい、でも守りたい。この相反する欲求のバランスを取ることこそが、人生を賢く生きる秘訣なのだと、先人たちは教えてくれているのです。

AIが聞いたら

宝を持つ人間は夜に出歩かない。これは情報セキュリティの根本的なジレンマを示している。守るべき情報を持つと、人は必ず防御行動を取る。しかしその防御行動自体が「ここに価値ある情報がある」というシグナルになってしまう。

通信工学では、意味のある情報をシグナル、それ以外をノイズと呼ぶ。普段から夜に出歩く人が突然夜間外出をやめたら、その行動変化は周囲にとって強いシグナルになる。つまり「何か隠している」という情報が、ノイズの少ない状態で相手に届く。盗賊からすれば、警戒している人を見つける方が、無警戒な人の中から宝を持つ人を探すより簡単だ。

さらに興味深いのは、この問題の再帰的な構造だ。宝を隠そうとする行動が情報を漏らす。それに気づいて「普段通りに振る舞おう」とすると、今度は不自然な平静さがシグナルになる。演技していることを隠そうとすると、その努力がまた新たなシグナルを生む。情報理論では、完全に情報を隠蔽するには、隠蔽行為自体を検知不可能にする必要があるが、これは理論上極めて困難だ。

結局、最も効果的な対策は「そもそも夜に出歩かない」という選択になる。価値ある情報を持つなら、その情報を使う場面自体を制限する。これは現代の機密情報管理でも同じで、重要データへのアクセス自体を時間的・空間的に制約することが基本原則になっている。

現代人に教えること

このことわざが現代のあなたに教えてくれるのは、成功や幸運を手にしたときこそ謙虚さを忘れてはいけないということです。SNSで何でも発信できる時代だからこそ、何を見せて何を隠すかという判断力が、あなた自身を守る盾になります。

昇進した、収入が増えた、素敵な恋人ができた。そんな嬉しい出来事を誰かと共有したい気持ちは自然なものです。でも、すべてをオープンにする必要はありません。本当に大切な人とだけ喜びを分かち合い、不特定多数には控えめでいる。そんな賢さが、あなたの幸せを長続きさせるのです。

これは臆病になれということではありません。自分の持つ価値を正しく認識し、それを適切に守る力を持つことです。真の自信とは、自分の成功を誇示しなくても揺るがない心の強さなのかもしれません。静かに、でも確実に、あなたの大切なものを守りながら前に進んでいく。そんな生き方を、このことわざは優しく教えてくれているのです。

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