馬上に居て之を得の読み方
ばじょうにいてこれをう
馬上に居て之を得の意味
「馬上に居て之を得」は、実際に行動し、その場に身を置くことで初めて真の成果や理解が得られるという意味です。頭で考えているだけ、計画を立てているだけでは何も手に入らず、実際に馬に乗って戦場に出るように、自ら体験することが重要だという教えです。
このことわざは、理論と実践の違いを強調する場面で使われます。どれだけ知識を蓄えても、どれだけ準備を重ねても、実際に行動しなければ本当の成果は得られません。スポーツでも仕事でも、実際にやってみて初めて分かることがあり、そこから得られる学びや成果は、座学では決して得られないものです。
現代では、挑戦することの大切さ、行動することの価値を説く際に用いられます。失敗を恐れて動けない人、準備ばかりして一歩を踏み出せない人に対して、まずは実際にやってみることの重要性を伝える言葉として理解されています。
由来・語源
このことわざは、中国の古典に由来すると考えられています。「馬上に居て之を得」という表現は、漢文調の言い回しで、「馬上」は文字通り馬に乗っている状態を、「之を得」は何かを得ることを意味しています。
中国の歴史において、天下統一や国の支配権は、しばしば武力によって獲得されました。馬に乗って戦場を駆け巡り、実際に戦うことで勝利を手にする。これが「馬上に居て之を得」の原義だと言われています。しかし、このことわざには続きがあるとされ、「馬上に居て之を治むべからず」、つまり「馬上で天下を得ることはできても、馬上で天下を治めることはできない」という教訓が含まれているという説があります。
武力で勝ち取ることと、実際に統治することは別の技能が必要だという深い洞察がここには込められています。日本では、この前半部分が独立して使われるようになり、「実際に行動することで成果を得る」という意味で広く理解されるようになったと考えられています。言葉の構造から見ても、「居て」という実際にその場にいる状態と、「得」という結果が対になっており、行動と成果の関係を端的に表現した言葉だと言えるでしょう。
使用例
- 彼は留学について何年も調べていたが、実際に行ってみて馬上に居て之を得ということを実感したようだ
- ビジネス書を読むだけでは成功できない、馬上に居て之を得というように実際に起業してみないと分からないことばかりだ
普遍的知恵
「馬上に居て之を得」ということわざが語り継がれてきた背景には、人間が持つ根源的な葛藤があります。それは、安全な場所にとどまりたいという欲求と、何かを成し遂げたいという欲求の間の葛藤です。
人は本能的にリスクを避けようとします。準備を重ね、計画を練り、失敗の可能性を最小限にしようとする。これは生存本能として当然のことです。しかし同時に、人間には成長したい、何かを達成したいという強い欲求もあります。この二つの欲求は、しばしば対立します。
先人たちは、この人間の性質を深く理解していました。そして気づいたのです。どれだけ準備をしても、実際に行動しなければ何も始まらないという真理に。馬に乗らなければ、戦場で何が起こるか永遠に分からない。泳ぎ方の本を読んでも、水に入らなければ泳げるようにはならない。
このことわざが今も生き続けているのは、人間のこの本質が時代を超えて変わらないからです。現代人も古代の人々と同じように、行動する前に不安を感じ、準備という名の先延ばしをしてしまいます。しかし、真の成果や理解は、いつの時代も実際に経験した者だけが手にできるのです。これは人間社会における不変の法則なのです。
AIが聞いたら
馬に乗っている状態で何かを得るというこのことわざは、脳科学の最新研究と驚くほど一致しています。人間が歩いたり馬に乗ったりして移動している時、脳内では海馬でシータ波という特殊な脳波が増加します。このシータ波は記憶の定着や空間認識に深く関わっていて、つまり移動中は脳が通常とは違うモードで働いているのです。
さらに興味深いのは、馬という存在が単なる移動手段ではなく、認知システムの一部として機能する点です。馬は人間の意図を察知し、地形を判断し、危険を回避します。言い換えると、乗り手は馬の感覚器官や判断力を自分の脳の延長として使っているわけです。これは拡張認知理論が指摘する「道具が思考の一部になる」現象そのものです。
実際、スタンフォード大学の研究では、歩行中は座っている時と比べて創造的思考が平均60パーセント向上することが確認されています。馬上ではさらに、上下動による前庭刺激が加わり、脳の広い領域が活性化します。古代の人々は脳波計など持っていませんでしたが、馬上という動的な状態が思考の質を変えることを経験的に知っていたのです。
つまりこのことわざは、優れた発想や判断は静止した脳だけでなく、動く身体と環境との相互作用から生まれるという認知科学の核心を突いています。
現代人に教えること
このことわざが現代のあなたに教えてくれるのは、完璧を求めすぎて動けなくなることの危険性です。情報があふれる現代社会では、調べようと思えばいくらでも情報が手に入ります。しかし、それは同時に「もっと調べてから」「もっと準備してから」という先延ばしの罠にもなります。
大切なのは、ある程度の準備ができたら、勇気を持って一歩を踏み出すことです。実際にやってみると、想像していたのとは違う現実に直面します。それは時に困難かもしれませんが、その経験こそがあなたを成長させる最高の教材になります。
現代社会で成功している人たちの多くは、完璧な準備ができてから動いたわけではありません。むしろ、不完全な状態でも行動を始め、実践の中で学び、修正し、成長してきた人たちです。失敗を恐れる必要はありません。失敗もまた、実際に行動した者だけが得られる貴重な学びなのですから。
あなたが今、何かを始めようか迷っているなら、このことわざを思い出してください。馬に乗らなければ、何も得られないのです。


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