後の雁が先になるの意味・由来・使い方|日本のことわざ解説

ことわざ

後の雁が先になるの読み方

あとのかりがさきになる

後の雁が先になるの意味

「後の雁が先になる」とは、後から来た者が先に出世したり成功したりすることを意味します。

組織や集団において、先輩や先に入った人よりも、後輩や後から加わった人の方が早く昇進したり、高い地位に就いたりする状況を表現する言葉です。必ずしも否定的な意味だけではなく、実力や才能、あるいは時代の流れによって、入社や入門の順序とは異なる結果が生まれることを客観的に述べる際に使われます。

このことわざを使う理由は、単に「追い越された」と言うよりも、自然界の雁の飛行という具体的なイメージを通じて、その状況をより印象的に伝えられるからです。現代社会でも、年功序列が必ずしも絶対ではなくなり、能力主義や成果主義が重視される中で、このような現象は珍しくありません。先に始めた人が必ずしも先にゴールするわけではないという、ある意味で公平な競争社会の一面を表現する言葉として理解されています。

由来・語源

このことわざの明確な由来は文献上はっきりとは残されていないようですが、言葉の構成から興味深い考察ができます。

「雁」は古くから日本人に親しまれてきた渡り鳥です。秋になると大陸から日本へ渡ってくる雁の群れは、V字型の美しい編隊を組んで飛ぶことで知られています。この隊列には明確な順序があり、先頭を飛ぶ雁が最も風の抵抗を受け、後ろの雁ほど楽に飛べるという特徴があります。

このことわざは、そんな雁の群れの順序が入れ替わる様子を人間社会の出世や成功に重ね合わせたものと考えられています。本来なら先に出発した雁が先頭にいるはずなのに、後から来た雁が追い越して先頭に立つ。この自然界の現象が、人間社会における立場の逆転を見事に表現しているのです。

また、雁は古来より秋の季語として和歌や俳句にも詠まれ、日本人の生活に深く根ざした鳥でした。その規則正しい編隊飛行は、人間社会の秩序や序列を連想させやすかったのでしょう。だからこそ、その順序が入れ替わる様子は、人々の印象に強く残り、ことわざとして定着したと考えられています。

使用例

  • 同期入社の彼が部長になったなんて、まさに後の雁が先になるだね
  • 弟が先に結婚して家を建てるとは、後の雁が先になるとはこのことだ

普遍的知恵

「後の雁が先になる」ということわざには、人生における順序と結果の不一致という、時代を超えた真理が込められています。

人間社会では、スタートラインに立った順番と、ゴールに到達する順番が必ずしも一致しないという現実があります。先に生まれた者、先に始めた者が常に有利であるとは限らない。この事実は、ある人には希望を与え、ある人には焦りや悔しさをもたらします。

なぜこのことわざが生まれ、語り継がれてきたのか。それは、人間が本能的に「順序」や「序列」を重視する生き物だからでしょう。年長者を敬い、先輩を立てる文化の中で、その順序が覆される瞬間は、人々の心に強い印象を残します。驚き、羨望、嫉妬、あるいは称賛。さまざまな感情が渦巻く中で、人々はこの現象に名前を与える必要があったのです。

同時に、このことわざは人生の公平さと不公平さの両面を映し出しています。努力や才能が正当に評価される社会では、後から来た者でも先に立てる。それは希望です。しかし一方で、先に努力を重ねてきた者が報われないこともある。それは人生の厳しさです。このことわざは、その両方を静かに、しかし確実に伝えているのです。

AIが聞いたら

雁がV字編隊で飛ぶとき、先頭の雁の翼端から渦が発生し、その後方斜め上に上昇気流が生まれます。この上昇気流は「翼端渦」と呼ばれ、後続の雁はこの気流に乗ることで自分の羽ばたきエネルギーを約30パーセント節約できることが研究で確認されています。つまり後ろの雁ほど体力を温存できるわけです。

ここで興味深いのは、先頭の雁が疲労してスピードが落ちたとき、後方で体力を温存していた雁が追い越して新しい先頭になる現象です。これは流体力学的に見ると完全に合理的な交代劇なのです。先頭の雁は渦を作り出すコストを一人で負担し続けるため、最も早く消耗します。一方、後続の雁は前方が作った「見えない階段」を登るように効率的に飛べるため、いざというとき追い越す余力を持っているのです。

人間社会でも同じ構造が見られます。先行者が市場を開拓し、失敗から学んだノウハウという「上昇気流」を作り出す。後発組はそのデータや教訓を利用して効率的に進み、やがて追い越す。これは単なる比喩ではなく、エネルギー効率の観点から見た自然界と人間社会の共通原理なのです。先行者の苦労は決して無駄ではなく、システム全体の推進力を生み出す物理的な役割を果たしているといえます。

現代人に教えること

このことわざが現代人に教えてくれるのは、人生における「スタートの早さ」と「到達の早さ」は別物だという冷静な視点です。

あなたが何かを始めるのが遅かったとしても、それは決定的な不利ではありません。後から始めた人には、先人の経験から学べるという大きな利点があります。失敗例を避け、成功例を参考にし、より洗練された方法で進むことができるのです。遅いスタートを嘆くのではなく、その立場を活かす知恵が求められています。

一方で、先に始めた立場にいる人にとっては、油断せずに成長し続けることの大切さを教えてくれます。先発優位は永遠ではなく、常に後ろから追いかけてくる人がいることを忘れてはいけません。

そして最も大切なのは、他人との比較に囚われすぎないことです。誰かに追い越されても、あなたの歩みが無意味になるわけではありません。逆に誰かを追い越したとしても、それで完結するわけでもない。それぞれの人生には、それぞれのペースとタイミングがあります。焦らず、しかし怠らず、自分の道を着実に進んでいく。それこそが、このことわざが静かに語りかけている人生の知恵なのです。

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