遠慮なければ近憂ありの意味・由来・使い方|日本のことわざ解説

ことわざ

遠慮なければ近憂ありの読み方

えんりょなければきんゆうあり

遠慮なければ近憂ありの意味

このことわざは「将来のことを深く考えて準備しておかなければ、必ず近い将来に心配事や困ったことが起きる」という意味です。

ここでの「遠慮」は現代語の「えんりょする」ではなく、「遠い先のことまで慮る(おもんぱかる)」つまり「先々のことまで深く考える」という意味です。「近憂」は「近い将来の心配事」を指します。つまり、長期的な視野を持って物事を考え、準備を怠らないことの大切さを教えているのです。

このことわざは、計画性や先見性の重要さを説く場面で使われます。例えば、勉強や仕事、健康管理、人間関係など、あらゆる分野において「今は大丈夫だから」と安心していると、後で困ったことになるという戒めとして用いられます。現代でも、将来への備えの大切さを伝える際や、目先のことだけに囚われがちな人への助言として使われています。

由来・語源

このことわざは、中国の古典『論語』の「子曰く、人遠慮なければ必ず近憂あり」という孔子の言葉に由来しています。ここでの「遠慮」は現代の「えんりょ」とは全く異なる意味で、「遠い将来のことまで考える」「先のことを深く思慮する」という意味でした。

孔子は紀元前6世紀頃の中国の思想家で、人生や政治について多くの教えを残しました。この言葉も、人間が生きていく上での重要な心構えを説いたものです。古代中国では、為政者や指導者には特に先見の明が求められ、目先のことだけでなく、長期的な視野を持つことが重視されていました。

日本には平安時代頃に仏教や儒学とともに伝わったとされ、武士の教養として広まりました。江戸時代には寺子屋などで庶民にも教えられるようになり、人生の指針として親しまれるようになったのです。明治時代の教育でも重要な教訓として扱われ、現代まで受け継がれています。ただし、時代とともに「遠慮」の意味が変化したため、本来の意味とは異なる解釈で使われることも多くなっています。

使用例

  • 老後資金について遠慮なければ近憂ありというから、今から少しずつでも貯金しておこう
  • 健康管理も遠慮なければ近憂ありで、若いうちから気をつけないと後で大変なことになる

現代的解釈

現代社会では、このことわざの重要性がより一層高まっています。情報化社会の急速な変化により、従来の「終身雇用」や「年功序列」といった安定した社会システムが揺らぎ、個人がより長期的な視野を持って人生設計をする必要性が増しているからです。

特にテクノロジーの進歩により、職業や働き方が短期間で大きく変わる時代になりました。AIやロボット技術の発達で、今ある仕事が将来なくなる可能性もあります。そのため、スキルアップや学び直し、副業の準備など、常に先を見据えた準備が求められています。

また、少子高齢化による年金制度の不安定化や、気候変動による環境問題など、社会全体が長期的な課題に直面しています。個人レベルでも、健康寿命の延伸に伴う老後資金の準備や、災害への備えなど、「遠慮」すべき事柄が増えています。

一方で、SNSやインターネットの普及により、即座に情報が得られ、すぐに結果を求める風潮も強まっています。このような「今すぐ」の文化の中で、じっくりと将来を考える習慣を身につけることは、より意識的な努力が必要になっているのが現代の特徴といえるでしょう。

AIが聞いたら

現代人の時間感覚には奇妙な矛盾がある。10年後の自分を想像できない人ほど、明日のテストや来週のプレゼンで夜も眠れなくなるのだ。

心理学者ハル・ハーシュフィールドの研究によると、将来の自分を「他人」として認識する人は、貯金ができず、健康管理も怠る傾向がある。つまり、遠い未来への関心が薄い人ほど、目先の問題に振り回されやすいということだ。

これは脳の仕組みと関係している。人間の脳は本来、目の前の危険に素早く反応するよう進化した。ライオンから逃げるには便利だが、現代社会では裏目に出る。たとえば、老後資金を考えない大学生は、バイト代が足りないだけでパニックになる。一方、30年後の年金問題を真剣に考える人は、今月の出費が多少増えても冷静でいられる。

SNS時代はこの傾向を加速させた。「いいね」の数という瞬間的な評価に一喜一憂する人が増えている。しかし皮肉なことに、10年後のキャリアビジョンを持つ人は、SNSの反応に左右されにくい。

つまり、遠くを見る目を失うと、近くのものが異常に大きく見えてしまう。これは望遠鏡を逆さに覗くようなものだ。古代中国の賢人たちは、この人間心理の盲点を見抜いていたのである。

現代人に教えること

このことわざが現代の私たちに教えてくれるのは、「今を大切にしながらも、未来への責任を忘れない」という生き方の大切さです。SNSで瞬時に情報が流れ、すぐに結果を求められる現代だからこそ、立ち止まって先のことを考える時間を意識的に作ることが重要になります。

具体的には、毎月少しずつでも将来のための貯金をする、新しいスキルを学び続ける、健康診断を定期的に受ける、大切な人との関係を日頃から大切にするといった小さな積み重ねが、将来の安心につながります。完璧である必要はありません。「今日できることを今日やる」という気持ちで十分です。

また、このことわざは個人だけでなく、社会全体にも当てはまります。環境問題や少子高齢化など、今すぐには困らないけれど将来大きな問題になることについて、一人ひとりが関心を持ち、できることから始めることが大切です。未来は不安なものではなく、今の準備によって希望に満ちたものにできるのです。

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