人を疑いては使う勿れ、人を使いては疑う勿れの意味・由来・使い方|日本のことわざ解説

ことわざ

人を疑いては使う勿れ、人を使いては疑う勿れの読み方

ひとをうたがいてはつかうなかれ、ひとをつかいてはうたがうなかれ

人を疑いては使う勿れ、人を使いては疑う勿れの意味

このことわざは、人を雇ったり任せたりする立場にある者の心構えを説いています。部下や協力者を使うのであれば、最初から信頼して任せるべきであり、疑いの目を持ちながら使うべきではないという意味です。そして、いったん信頼して仕事を任せたからには、途中で疑いの心を持って監視したり、細かく干渉したりしてはならないという教えでもあります。

この表現を使う理由は、疑いながら人を使うことの弊害を戒めるためです。信頼されていないと感じた人は、本来の能力を発揮できず、やる気も失ってしまいます。現代でも、上司が部下を信頼せずに細かく管理したり、任せたはずの仕事に口を出し続けたりすれば、良い結果は生まれません。このことわざは、人を動かす立場にある者にとって、信頼こそが最も大切な基盤であることを教えてくれるのです。

由来・語源

このことわざは、中国の古典に由来すると考えられています。特に「韓非子」や「貞観政要」といった帝王学や統治術を説いた書物の中に、似た思想が見られることから、そうした古典の教えが日本に伝わり、ことわざとして定着したという説が有力です。

中国の古代では、君主がどのように臣下を用いるべきかという問題は、国の存亡に関わる重要なテーマでした。疑いながら人を使えば、その人は本来の力を発揮できず、かえって裏切りを招くこともある。一方で、いったん信頼して任せた以上は、細かく監視したり疑ったりすれば、相手の士気を損ない、組織全体の力が弱まってしまう。こうした統治の知恵が、簡潔な言葉にまとめられたのでしょう。

日本でも江戸時代には、武士の心得として広く知られるようになりました。主君と家臣、あるいは商家の主人と番頭といった関係において、人を使う立場にある者が心得るべき原則として重視されたと考えられています。信頼関係なくして組織は成り立たないという、人間関係の本質を突いた教えとして、長く語り継がれてきたのです。

使用例

  • 新しいプロジェクトリーダーには彼を任命したのだから、人を使いては疑う勿れの精神で見守るべきだ
  • 人を疑いては使う勿れというが、最初の人選こそが経営者の最も重要な仕事なのだろう

普遍的知恵

このことわざが語り継がれてきた背景には、人間の本質的な欲求への深い洞察があります。人は誰しも、信頼されたいという強い願望を持っています。疑われながら働くことほど、人の心を傷つけ、力を奪うものはありません。逆に、心から信頼されていると感じたとき、人は自分でも驚くほどの力を発揮するものです。

興味深いのは、このことわざが「使う側」の心構えを説いている点です。人を疑うことは、実は疑う側の心をも蝕んでいきます。常に疑いの目を向けていれば、相手の些細な行動が気になり、心は休まりません。組織全体に不信感が広がり、誰もが互いを監視し合う息苦しい空気が生まれてしまいます。

先人たちは、信頼関係こそが人間社会の基盤であることを見抜いていました。完璧な人間などいない以上、時には裏切られることもあるでしょう。それでもなお、信頼することを選ぶ。その覚悟があってこそ、人は人を動かし、共に大きな仕事を成し遂げることができる。このことわざは、リスクを恐れず信頼する勇気の大切さを、静かに、しかし力強く教えてくれているのです。

AIが聞いたら

量子力学では、粒子の状態は観測するまで確定していません。たとえば電子は観測前、複数の場所に同時に存在する重ね合わせ状態にあります。ところが測定装置を向けた瞬間、その状態は一つに収束してしまう。これが観測問題です。

人間関係でも似たことが起きています。部下に仕事を任せた時、その人の能力や誠実さは実は確定していません。信頼できるかもしれないし、できないかもしれない。でも疑いの目で監視した瞬間、相手の状態は変化します。疑われていると感じた人は、自主性を失い、指示待ちになり、創造性が消えていく。つまり観測行為そのものが、観測対象を変えてしまうのです。

量子力学の不確定性原理は、位置を正確に測ろうとすると運動量が乱れ、運動量を測ろうとすると位置が乱れると教えます。人間関係でも、疑念という測定装置を使えば使うほど、本来知りたかった相手の真の能力や誠実さは見えなくなります。監視カメラを増やせば増やすほど、自発的に働く姿は消えていく。

このことわざは、観測しないことで初めて最良の状態が保たれるという、量子論的な逆説を2000年前から知っていたのです。

現代人に教えること

現代社会では、管理ツールやモニタリング技術の発達により、人の行動を細かく監視することが可能になりました。しかし、このことわざは私たちに問いかけます。技術的に可能だからといって、それが正しいマネジメントなのでしょうか。

このことわざが教えてくれるのは、人を信頼することの勇気です。完全にリスクをゼロにすることはできません。それでも信頼を選ぶ。その決断こそが、あなたを真のリーダーにするのです。部下や同僚、あるいは家族に対しても、任せたら信じる。その姿勢が、相手の中に眠る可能性を引き出します。

もちろん、最初の人選は慎重に行うべきです。しかし、いったん任せると決めたなら、細かく口を出したり、疑いの目を向けたりすることは控えましょう。失敗を恐れず、相手を信じて見守る。その温かい信頼こそが、人を育て、組織を強くし、あなた自身の人間としての器を大きくしていくのです。

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