能書きの読めぬ所に効き目ありの意味・由来・使い方|日本のことわざ解説

ことわざ

能書きの読めぬ所に効き目ありの読み方

のうがきのよめぬところにききめあり

能書きの読めぬ所に効き目ありの意味

このことわざは、理解できないほど専門的で難解な説明がついているものほど、実際には効果が高いという意味を表しています。

薬の効能書きが専門用語だらけで読めないほど複雑であれば、それだけ本格的で効き目があるものだと感じられる、という人間の心理を表現したものです。わかりやすい説明よりも、難しくて理解できない説明の方が、かえって信頼性や効果を感じさせるという逆説的な現象を指摘しています。

現代でも、専門家が使う難解な用語や複雑な説明ほど、その分野の深い知識に基づいた本物だと感じることがありますね。このことわざは、そうした人間の心理を鋭く捉えています。理解できないことが、逆に品質や効果の高さを保証しているように思えてしまう、そんな不思議な感覚を言い表した表現なのです。

由来・語源

このことわざの明確な文献上の初出は定かではありませんが、江戸時代の庶民文化の中で生まれたと考えられています。「能書き」とは、もともと薬の効能や使用法を記した説明書のことを指していました。

江戸時代、薬は貴重品であり、特に漢方薬には複雑な効能書きが添えられていました。しかし、当時の庶民の多くは文字を読めなかったり、読めても専門的な漢字や医学用語を理解できなかったりしました。それでも薬を服用すると、不思議なことに効果を実感することが多かったのです。

この現象から、「難しい説明が理解できないほど、かえって効き目がある」という皮肉めいた観察が生まれたと推測されます。理解できないほど専門的な説明がついているものほど、本格的で効果があるという、庶民の経験則が込められているのでしょう。

また、この表現には、わかりやすすぎる説明よりも、難解で権威的な説明の方が人々の信頼を得やすいという、人間心理への洞察も含まれていると考えられています。専門性の高さが品質の証と受け取られる傾向は、現代にも通じる普遍的な現象かもしれません。

使用例

  • この健康食品、成分表示が専門用語だらけで全く読めないけど、能書きの読めぬ所に効き目ありって言うし期待できそうだ
  • あの先生の論文は難しすぎて理解できないが、能書きの読めぬ所に効き目ありで、きっと素晴らしい研究なんだろう

普遍的知恵

このことわざが映し出すのは、人間が持つ「権威への信頼」という普遍的な心理です。私たちは、理解できないほど専門的なものに対して、畏敬の念を抱き、その価値を高く評価する傾向があります。

なぜ人は理解できないものを信頼するのでしょうか。それは、複雑さが専門性の証であり、専門性が品質の保証だと感じるからです。簡単に理解できるものは、誰にでもできる程度のものだと思われがちです。一方、難解なものは、長年の修練を積んだ専門家だけが扱える高度なものだと感じられるのです。

この心理は、医療、学問、技術など、あらゆる専門分野で見られます。患者は難しい医学用語で説明する医師を信頼し、複雑な数式を使う科学者を尊敬します。理解できないことが、かえって安心材料になるという逆説が、ここにあります。

しかし、このことわざには皮肉も込められています。本当に優れたものは、必ずしも難解である必要はないはずです。それでも人は、わかりやすさよりも難解さに価値を見出してしまう。この人間の性質を、先人たちは鋭く見抜いていたのです。理解できないものへの盲目的な信頼と、それを利用する側の存在。この構図は、時代を超えて変わらない人間社会の一面を示しているのです。

AIが聞いたら

情報理論の観点から見ると、このことわざは「情報の純度」が高まる瞬間を捉えています。シャノンの情報理論では、伝えたいメッセージ(シグナル)に余計な情報(ノイズ)が混ざると、受信者は正しく情報を受け取れなくなります。薬の能書きが読めない状況は、一見すると情報不足に思えますが、実は逆なのです。

能書きには「副作用があるかも」「効果には個人差が」といった情報が詰まっています。これらは正確な情報ですが、患者の脳内では「効かないかもしれない」という予期不安を生み出します。情報理論では、こうした受信者側で発生する余計な解釈を「冗長性」と呼びます。つまり、本来のシグナル(薬の化学的効果)に、心理的なノイズが上乗せされてしまうのです。

興味深いのは、プラセボ研究で実証されている数字です。偽薬でも30パーセント前後の人に症状改善が見られますが、これは「薬だと思い込む」という情報が作り出した効果です。逆に言えば、能書きを読んで不安になった人は、本物の薬でも効果が20パーセント程度減少するという報告もあります。

能書きが読めない状況では、患者は純粋に身体の変化だけを感じ取ります。これは情報伝達経路から冗長性が削ぎ落とされ、薬効という本質的シグナルだけが届いた状態なのです。

現代人に教えること

このことわざが現代の私たちに教えてくれるのは、「わかりにくさ」と「価値」を混同しないことの大切さです。

確かに、専門的で複雑な説明には深い知識が込められていることも多いでしょう。しかし、本当に優れた専門家は、難しいことをわかりやすく伝える力も持っているはずです。理解できない説明だからといって、それが必ずしも優れているとは限りません。

あなたが何かを選ぶとき、難解さに惑わされず、本質を見極める目を持ってください。説明が複雑だから良いものだと思い込むのではなく、「これは本当に必要な複雑さなのか」「わかりやすく説明できないのはなぜか」と問いかけてみましょう。

同時に、自分が何かを説明する立場になったときは、専門性を保ちながらも相手に理解してもらえる表現を心がけることが大切です。難しい言葉で煙に巻くのではなく、誠実に伝える姿勢こそが、真の専門性の証なのです。複雑さの向こうにある本質を見抜く力、それがこのことわざから学べる現代的な知恵なのです。

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