取るよりかばえの意味・由来・使い方|日本のことわざ解説

ことわざ

取るよりかばえの読み方

とるよりかばえ

取るよりかばえの意味

「取るよりかばえ」は、新しく利益を得ようと追求するよりも、今あるものを失わないように守ることの方が大切だという意味です。

このことわざは、人が新たな獲得に目を奪われがちな性質を戒めています。私たちは往々にして、手元にあるものの価値を見過ごし、まだ手に入れていないものに魅力を感じてしまいます。しかし、新しいものを追い求める過程で、既に持っている大切なものを失ってしまうリスクがあるのです。

使用場面としては、事業拡大を急ぐあまり既存事業がおろそかになっている時、新しい人間関係を求めて古い友人を大切にしなくなった時、あるいは欲張って投資を増やし元手まで失いそうな時などに用いられます。

現代では、確実性と安定性を重視する保守的な姿勢を推奨する表現として理解されています。攻めの姿勢より守りの姿勢、拡大より維持、獲得より保全を優先すべきだという、堅実な人生観を示すことわざです。

由来・語源

このことわざの由来について、明確な文献上の記録は残されていないようですが、言葉の構成から興味深い考察ができます。

「取る」と「かばう」という二つの動詞を対比させた表現です。「取る」は新たに何かを獲得する行為を指し、「かばう」は既に持っているものを守り保護する行為を意味します。この対比構造そのものが、このことわざの核心的なメッセージを伝えています。

「かばう」という言葉は、もともと「庇う」と書き、覆いかぶさって守るという意味を持ちます。雨風から身を守る庇(ひさし)と同じ語源で、大切なものを外部の脅威から保護する様子を表現しています。

このことわざが生まれた背景には、日本の農耕社会における実践的な知恵があると考えられます。新しい田畑を開墾して収穫を増やすことよりも、既にある田畑を大切に維持し、確実な収穫を守ることの方が、生活の安定につながるという経験則です。飢饉や災害が多かった時代、冒険的な利益追求よりも、手堅く現状を維持することが生き残りの鍵でした。

商人の世界でも同様の考え方があったとされ、新規事業で大きく儲けようとするより、既存の顧客や信用を大切に守る方が、長期的には商売繁盛につながるという教えとして語り継がれてきたと考えられています。

使用例

  • 新規事業に手を出すより、取るよりかばえで既存の顧客を大切にした方がいいよ
  • 投資で儲けようとするより取るよりかばえだ、今ある貯金を減らさないことを考えよう

普遍的知恵

「取るよりかばえ」ということわざには、人間の欲望と満足についての深い洞察が込められています。

人間には「もっと欲しい」という際限のない欲求があります。今持っているものに満足できず、常に次の獲得目標を探してしまう性質です。この欲望自体は人類の進歩を支えてきた原動力でもありますが、同時に私たちを不幸にする要因にもなります。なぜなら、新しいものを追い求める過程で、既に手にしている幸せや安定を見失ってしまうからです。

このことわざが語り継がれてきた理由は、人間が繰り返し同じ過ちを犯してきたからでしょう。歴史を振り返れば、欲張って全てを失った人々の物語は数え切れません。手堅く守っていれば安泰だったものを、もっと大きな利益を求めて危険な賭けに出し、結局は元も子もなくしてしまう。この悲劇的なパターンは、時代が変わっても繰り返されています。

先人たちは、人間の本質的な弱さを見抜いていました。私たちは獲得の喜びには敏感ですが、喪失の痛みはそれ以上に大きいという事実です。心理学的にも、得る喜びより失う苦しみの方が強く感じられることが証明されています。だからこそ、攻めるより守ることの価値を説くこのことわざは、普遍的な知恵として今も生き続けているのです。

AIが聞いたら

このことわざを数学的に分析すると、驚くべき構造が見えてくる。まず「取る」という行動を数値化してみよう。たとえば目の前に100円があって、自分が取れば+100円、相手は0円。一見、自分の利得は最大に見える。しかしこれは一回限りのゲームでの話だ。

ところが現実の人間関係は反復ゲームになっている。つまり同じ相手と何度も何度も相互作用を繰り返す。ここで重要な発見がある。「かばう」という行動は、実は相手に協調のシグナルを送る投資なのだ。自分が50円分の損をしてでも相手をかばうと、相手もまた将来あなたをかばう確率が劇的に上がる。研究では協調行動を受けた相手は約70パーセント以上の確率で協調を返すことが分かっている。

さらに興味深いのは、集団全体で見たときの総利得だ。全員が「取る」戦略だと、互いに警戒し合い、機会損失が膨大になる。言い換えると、協力すれば生まれたはずの200円の価値が、奪い合いによって50円にまで目減りする。一方「かばう」文化の集団では、信頼によって新しい価値が次々生まれ、総利得が300円、400円と増えていく。この増えた分が巡り巡って自分にも戻ってくる。

つまり「かばう」は損ではなく、長期的な利益の最大化装置だったのだ。

現代人に教えること

このことわざが現代の私たちに教えてくれるのは、「足るを知る」ことの価値です。

現代社会は常に成長と拡大を求めます。SNSでは他人の成功が目に入り、もっと稼ぎたい、もっと認められたいという欲求が刺激され続けます。しかし、そうした欲望に駆られて無理な挑戦をすれば、今ある安定した生活、信頼できる人間関係、心の平穏といった、かけがえのないものを失うリスクがあります。

大切なのは、今あなたが持っているものの価値を正しく認識することです。安定した収入、健康な体、支えてくれる家族や友人。これらは当たり前に感じるかもしれませんが、一度失えば取り戻すのが困難な宝物です。

もちろん、全ての挑戦を避けるべきだという意味ではありません。新しいことに挑戦する価値はあります。ただし、その挑戦が今持っているものを危険にさらすものでないか、冷静に見極める必要があるのです。

あなたの人生で本当に大切なものは何でしょうか。それを守りながら、無理のない範囲で前進する。そんなバランス感覚こそが、このことわざが現代人に贈る知恵なのです。

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