取らんとする者は先ず与うの意味・由来・使い方|日本のことわざ解説

ことわざ

取らんとする者は先ず与うの読み方

とらんとするものはまずあたう

取らんとする者は先ず与うの意味

このことわざは、何かを得たいと思うなら、まず相手に与えることが大切だという意味です。人から信頼を得たいなら先に信頼を示す、協力してほしいなら先に協力する、愛されたいなら先に愛を与えるという、人間関係の基本原理を教えています。

使われる場面は、ビジネスでの取引関係、友人関係の構築、あるいは組織内での協力体制づくりなど、相互関係が重要な状況です。「ギブアンドテイク」という言葉が現代では使われますが、このことわざはさらに踏み込んで、「テイク」を望むなら「ギブ」を先にすべきだと順序まで明確にしています。

現代でも、この知恵は色あせていません。むしろSNSの時代になって、一方的に要求するだけの姿勢では誰も応えてくれないという現実が、より明確になっています。先に価値を提供する人のもとに、人も情報も集まってくるのです。

由来・語源

このことわざの由来については、明確な文献上の初出が特定されていないようですが、その構造と内容から中国の古典思想の影響を受けている可能性が考えられています。特に「先ず与う」という表現は、老子の思想に見られる「与えることで得る」という逆説的な知恵と通じるものがあります。

「取らんとする」という古語表現は、「取ろうとする」という意志を表しており、人間の欲求や目的を率直に認めた上で、その達成方法を説いている点が興味深いところです。単に「欲を持つな」と否定するのではなく、「得たいなら、まず与えよ」という実践的な知恵として提示されています。

この言葉が日本で受け入れられ、ことわざとして定着した背景には、商人の知恵としての側面もあったと考えられます。江戸時代の商人道では、目先の利益を追うのではなく、顧客との信頼関係を築くことが長期的な繁栄につながるという考え方が重視されました。「先ず与う」という姿勢は、まさにこの商道徳と合致するものです。

言葉の構造自体が教訓を含んでおり、「取る」と「与える」という対照的な行為を一つの文に収めることで、人間関係における循環の原理を簡潔に表現しています。

使用例

  • 新規顧客を獲得したいなら、取らんとする者は先ず与うの精神で、まず無料相談会を開いて信頼を築こう
  • 彼女に好かれたいからって自分の話ばかりしてもダメだよ、取らんとする者は先ず与うというだろう

普遍的知恵

このことわざが語る普遍的な真理は、人間関係が本質的に相互的なものであるという洞察です。私たちは誰もが何かを得たいと願っています。しかし、多くの人が見落としているのは、相手もまた同じように何かを求めているという事実です。

人間の心には不思議な性質があります。先に与えられた人は、お返しをしたくなるのです。これは義務感というより、むしろ自然な感情の流れです。逆に、何も与えずに要求だけする人に対しては、心が閉ざされてしまいます。これは時代が変わっても、文化が違っても変わらない人間の本質です。

このことわざが長く語り継がれてきた理由は、それが単なる道徳的な教えではなく、実際に効果のある人生の知恵だからです。先人たちは経験から学びました。欲しいものを直接求めるより、まず相手に価値を提供する方が、結果的に多くのものを得られると。

さらに深い洞察は、「与える」という行為そのものが、与える側の人間性を高めるという点です。与えることで、私たちは自分が豊かであることを確認し、心に余裕が生まれます。その余裕が、さらに多くのものを引き寄せる磁力となるのです。これは単なる取引ではなく、人間の成長と幸福の循環なのです。

AIが聞いたら

1980年代、政治学者ロバート・アクセルロッドは世界中の研究者にプログラムを募集して、コンピュータ上で囚人のジレンマゲームのトーナメントを開催しました。囚人のジレンマとは、お互いに協力すれば両者とも利益を得られるのに、裏切った方が得をする可能性があるため、結局両者とも裏切ってしまうという状況です。驚くべきことに、複雑な戦略を組み込んだプログラムを次々と破って優勝したのは、わずか数行のシンプルな戦略でした。それが「TIT-FOR-TAT(しっぺ返し)戦略」です。

この戦略のルールは単純で、初回は必ず協力し、2回目以降は相手の前回の行動を真似するだけです。つまり「先ず与う」わけです。なぜこれが最強なのか。数学的分析によると、この戦略は相手が協力的なら協力関係を維持でき、相手が裏切れば即座に報復するため舐められません。重要なのは、最初に協力という信号を送ることで、相手にも協力を促す点です。先に裏切る戦略は短期的には得点を稼げても、長期的には協力者を失い、総得点で負けてしまいます。

さらに興味深いのは、生物学者がこの理論を自然界で検証したことです。吸血コウモリは血を分け合い、魚は互いに寄生虫を取り合います。遺伝子レベルでも「先に与える」性質を持つ個体群の方が、何世代も経ると生存率が高くなることがシミュレーションで示されました。つまり「先ず与う」は感情論ではなく、生存競争を勝ち抜くための計算された戦略だったのです。

現代人に教えること

現代社会でこのことわざが教えてくれるのは、「待つ」のではなく「始める」勇気の大切さです。多くの人が、誰かが先に動いてくれるのを待っています。でも、あなたが先に一歩を踏み出すことで、状況は動き始めるのです。

職場で協力的な雰囲気を作りたいなら、まずあなたが同僚を手伝ってみてください。友人関係を深めたいなら、まずあなたが心を開いて話してみてください。ビジネスで成功したいなら、まずあなたが顧客に価値を提供してみてください。

この姿勢は、決して損をすることではありません。与えることで、あなた自身が豊かな人間になっていきます。与える余裕がある人、与える知恵がある人、与える勇気がある人へと成長していくのです。

そして忘れないでください。与えたものは必ず返ってきます。すぐには返ってこないかもしれません。思った形では返ってこないかもしれません。でも、あなたが誠実に与え続けるなら、必ず何倍にもなって、思いがけない形で返ってくるものです。それが人生の不思議な法則なのです。

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