出すことは舌を出すのも嫌いの意味・由来・使い方｜日本のことわざ解説

出すことは舌を出すのも嫌いの読み方

だすことはしたをだすのもきらい

出すことは舌を出すのも嫌いの意味

このことわざは、何事にも出し惜しみをする、極端にけちな性質を表現しています。お金や物を出すことを嫌がるのはもちろん、それどころか何の損失もない舌を出すという些細な動作さえも惜しむような、度を越したけちな人を風刺的に描いた言葉です。

使用場面としては、あまりにも出し惜しみが激しい人を批判したり、皮肉を込めて評したりする際に用いられます。単にお金に細かいというレベルではなく、およそ「出す」という行為全般に対して異常なほど消極的な態度を取る人物を表現する際に効果的です。

この表現が使われる理由は、誇張による強調効果にあります。舌を出すという何の損失もない行為まで持ち出すことで、そのけちぶりを際立たせ、聞き手に強い印象を与えることができます。現代でも、極端な出し惜しみをする人物を批判的に、あるいはユーモラスに表現したい時に、この言葉の持つ風刺的な力は有効に機能します。

由来・語源

このことわざの明確な文献上の初出は定かではありませんが、言葉の構造から興味深い発想の転換が見て取れます。

「舌を出す」という行為に注目してみましょう。舌を出すことは、人間にとって最も簡単で、何の労力も費用もかからない動作の一つです。お金もかからず、体力も使わず、ただ口を開けて舌を少し前に出すだけ。これ以上手軽な「出す」行為は考えにくいでしょう。

ところが、このことわざはその最も簡単な「出す」行為さえも嫌がる人物を描いています。ここに、極端な誇張表現による風刺の技法が使われていると考えられます。お金や物を出し惜しみするだけでなく、何の損失もない舌を出すことさえ嫌がるという表現によって、けちな性質を際立たせているのです。

江戸時代の庶民文化の中で、人間の様々な性質を鋭く観察し、ユーモアを交えて表現する言葉が数多く生まれました。このことわざも、そうした庶民の観察眼から生まれた表現の一つと推測されます。「出す」という動詞を、金銭や物品から身体の一部まで拡大解釈することで、けちな人物像を滑稽なまでに強調する、日本語ならではの言葉遊びの要素も感じられる表現です。

使用例

• 彼は出すことは舌を出すのも嫌いというくらいのけちで、飲み会の割り勘でも一円単位まで計算する
• あの社長は出すことは舌を出すのも嫌いな性格だから、社員への投資なんて期待できないよ

普遍的知恵

「出すことは舌を出すのも嫌い」ということわざは、人間の所有欲と損失回避の心理が極端な形で現れた姿を映し出しています。

人は誰しも、自分の持っているものを失いたくないという本能を持っています。それは生存のために必要な防衛本能でもあります。しかし、この本能が過剰になると、与えることや分かち合うことができなくなり、人間関係や社会生活に支障をきたします。

興味深いのは、このことわざが単なる金銭的なけちを超えて、「出す」という行為そのものへの抵抗を描いている点です。舌を出すことさえ嫌がるという表現は、もはや実利的な損得を超えた、心理的な閉鎖性を示唆しています。つまり、物質的な損失への恐れだけでなく、自分の内側から外側へ何かを出すこと自体への拒否反応なのです。

このことわざが長く語り継がれてきたのは、人間社会において「与えること」と「受け取ること」のバランスが常に重要なテーマだったからでしょう。極端な出し惜しみは、結局のところ自分自身を孤立させ、豊かな人間関係から遠ざけてしまいます。先人たちは、この滑稽なまでの誇張表現を通じて、閉じた心の危うさを警告していたのかもしれません。

AIが聞いたら

人間の脳は「出す」という行為を、実際の損失以上に大きく評価してしまう仕組みを持っている。行動経済学の研究によれば、100円を失う痛みは、100円を得る喜びの約2.5倍も強く感じられる。つまり、お金を出すとき、私たちの脳は実際の金額の2.5倍の痛みを処理しているようなものだ。

このことわざが面白いのは、この損失回避バイアスが極限まで拡大された状態を描いている点だ。お金や物を出すのが嫌なのは理解できる。しかし舌を出すという行為は、何も失わない。エネルギー消費はほぼゼロで、数秒後には元に戻る。それでも「出す」という動詞が含まれるだけで拒否反応を示してしまう。これは脳の損失回避システムが、本来の目的を超えて暴走している状態と言える。

さらに興味深いのは、このバイアスが生存に有利だったという点だ。狩猟採集時代、食料や資源を失うことは命に関わった。だから「出す=損失」という回路が強化された。しかし現代では、この過剰な警戒システムが、合理的な判断を妨げる。舌を出すことすら惜しむのは、数万年前の生存本能が現代社会でバグを起こしている証拠なのだ。

現代人に教えること

このことわざが現代人に教えてくれるのは、「出すこと」の本質的な価値です。私たちは日々、お金、時間、労力、そして感情を「出す」かどうかの選択を迫られています。

確かに、無駄遣いは避けるべきですし、自分を守ることも大切です。しかし、出し惜しみが習慣化すると、人生の可能性まで閉ざしてしまいます。新しい経験への投資、人への思いやりの表現、自分のアイデアを世に出すこと、これらはすべて「出す」行為です。

現代社会では、情報やアイデアを惜しみなく共有する人が、結果的により多くのものを得ています。オープンソースの文化や、ギブ・アンド・テイクの精神が評価されるのは、「出すこと」が新たな価値を生み出すからです。

あなたが何かを出し惜しみしそうになったとき、それが本当に守るべきものなのか、それとも恐れから来る過剰な防衛なのか、立ち止まって考えてみてください。舌を出すくらい簡単なことから始めて、少しずつ心を開いていく。そんな小さな一歩が、豊かな人間関係と充実した人生への扉を開くのです。