其の本を揣らずして其の末を斉しゅうすの意味・由来・使い方|日本のことわざ解説

ことわざ

其の本を揣らずして其の末を斉しゅうすの読み方

そのもとをはからずしてそのすえをととのうす

其の本を揣らずして其の末を斉しゅうすの意味

このことわざは、根本的な原因を理解せずに表面的な問題だけを解決しようとする態度を戒める言葉です。物事には必ず根っこにある本質的な原因があり、それを見極めずに目に見える部分だけを取り繕っても、真の解決にはならないという意味を持っています。

たとえば、会社で業績が悪化したとき、根本的な経営方針や組織の問題を見直さずに、表面的なコスト削減だけで乗り切ろうとする場面などで使われます。また、人間関係のトラブルで、本当の原因である価値観の違いや誤解を解消せずに、その場しのぎの謝罪だけで済ませようとする態度も、このことわざが指摘する問題です。

現代社会では、すぐに結果を求められることが多く、じっくりと根本原因を探る時間が取れないことがあります。しかし、このことわざは私たちに、急がば回れの精神で本質を見極めることの重要性を教えてくれているのです。

由来・語源

このことわざは、中国の古典思想、特に儒教の影響を受けた表現だと考えられています。「本」と「末」という対比は、中国哲学において根本と枝葉を表す重要な概念でした。

「揣る」という言葉は現代ではあまり使われませんが、「推し量る」「考える」という意味を持ちます。つまり、根本をよく考えずに、という意味になります。「斉しゅうす」は「整える」という意味で、表面を整えることを指しています。

この表現の背景には、物事には必ず根本的な原因があり、それを理解することが何よりも重要だという東洋思想があります。木に例えるなら、根が健康でなければ枝葉をいくら整えても意味がないという考え方です。

日本に伝わった後、このことわざは為政者や学者の間で使われるようになったと推測されます。政治や教育の場面で、表面的な対策に終始することへの戒めとして用いられてきたのでしょう。漢文調の格調高い表現が残されているのは、学問的な文脈で重視されてきた証拠だと言えます。

現代ではあまり耳にしない表現ですが、その教えは今も色褪せることなく、私たちに本質を見極める大切さを伝えています。

使用例

  • 売上が落ちたからといって値下げばかりしているが、其の本を揣らずして其の末を斉しゅうすで、商品の魅力不足という根本問題に目を向けていない
  • 子どもが勉強しないからと叱るだけでは其の本を揣らずして其の末を斉しゅうすだ、なぜ学ぶ意欲を失ったのか理解しなければ

普遍的知恵

人間には、目に見える問題にすぐ飛びつきたくなる性質があります。なぜなら、表面的な問題は分かりやすく、対処した気分になれるからです。しかし、このことわざが何百年も語り継がれてきたのは、人間がいつの時代も同じ過ちを繰り返してきたからに他なりません。

根本原因を探ることは、時間がかかり、時には自分自身の非を認めなければならない辛い作業です。組織の問題なら、自分の判断ミスを認めることになるかもしれません。人間関係なら、相手だけでなく自分にも原因があると向き合わなければならないでしょう。だから人は無意識のうちに、楽な道を選んでしまうのです。

しかし、先人たちは気づいていました。表面だけを繕う対処は、一時的な安心をもたらすだけで、やがて同じ問題が形を変えて現れることを。それどころか、根本原因が放置されることで、問題はより深刻化していくことを。

このことわざが示しているのは、人間の本質的な弱さと、それを乗り越える知恵です。目先の楽さに流されず、勇気を持って本質と向き合う。その姿勢こそが、真の問題解決への道だと教えてくれているのです。

AIが聞いたら

システム科学には「介入の階層性」という考え方があります。たとえば会社の業績不振に対して、社員の残業時間を増やすのは「パラメータ調整」、評価制度を変えるのは「フィードバック構造の変更」、会社の存在意義そのものを問い直すのが「目的の変更」です。メドウズの研究によれば、これらの効果は10倍、100倍と桁違いに変わります。つまり末端をいくら調整しても、根本的な構造を変える1回の介入には遠く及ばないのです。

興味深いのは、多くの組織が「見える部分」ばかり整えようとする傾向です。売上が落ちたら営業マンを叱咤する、学力が下がったら勉強時間を増やす。これらは全て「末を揃える」行為です。しかし本当の問題が「何のために売るのか分からない」「なぜ学ぶのか見失っている」という目的の欠如なら、いくら末端を調整しても効果は一時的です。

複雑系科学が明らかにしたのは、システムには「leverage point(てこの支点)」があり、小さな力で大きな変化を生む場所が存在するという事実です。この諺が示唆するのは、その支点は常に「本(根本)」にあるということ。根を変えずに枝葉を揃えようとする行為は、エネルギー効率が極めて悪い介入なのです。

現代人に教えること

このことわざが現代の私たちに教えてくれるのは、立ち止まって考える勇気の大切さです。忙しい毎日の中で、私たちはつい目の前の問題に応急処置を施すことで満足してしまいがちです。でも、それでは同じ問題が何度も繰り返されるだけなのです。

あなたが今、何か困難に直面しているなら、一度深呼吸をして問いかけてみてください。「これは本当に根本的な原因だろうか」と。時間をかけて本質を見極めることは、決して遠回りではありません。むしろ、それこそが最も確実な近道なのです。

職場でも家庭でも、表面的な対立の奥には、もっと深い理解不足やすれ違いが隠れていることがあります。それを見つけ出し、向き合う勇気を持つこと。簡単ではありませんが、そこにこそ真の成長があります。

このことわざは、あなたに焦らないでと語りかけています。本質を見極める時間を惜しまないでください。その姿勢が、あなた自身を、そしてあなたの周りの世界を、本当の意味で変えていく力になるのですから。

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