仕事は多勢旨い物は小勢の意味・由来・使い方|日本のことわざ解説

ことわざ

仕事は多勢旨い物は小勢の読み方

しごとはおおぜいうまいものはこぜい

仕事は多勢旨い物は小勢の意味

このことわざは、仕事をするときは大勢で協力すれば能率よく進むけれど、美味しいものを食べるときは少人数の方が一人あたりの取り分が多くて得だという、人間社会の二つの真理を対比させて表現したものです。

前半は協力の利点を示しています。大変な作業や重労働は、人数が多ければ多いほど一人あたりの負担が軽くなり、作業もはかどります。後半は利益配分の現実を示しています。限られた美味しいものを分け合うなら、人数が少ない方が自分の取り分が増えるという、誰もが感じる本音です。

このことわざを使うのは、協力の必要性と利益の分配という相反する状況を、ユーモアを込めて指摘するときです。人間の矛盾した心理、つまり困難なときは助け合いたいけれど、得をするときは独り占めしたいという正直な気持ちを、批判するのではなく、むしろ当然のこととして受け入れる寛容さが込められています。現代でも、プロジェクトは大人数で進めるけれど、ボーナスは少人数で分けたいという状況に、この言葉の本質が生きています。

由来・語源

このことわざの明確な文献上の初出は定かではありませんが、江戸時代の庶民の生活実感から生まれた言葉だと考えられています。

言葉の構造を見ると、「仕事は多勢」と「旨い物は小勢」という対照的な二つの状況を並べた形になっています。前半部分は、田植えや建築、荷物の運搬など、人手を必要とする作業が多かった時代背景を反映しているでしょう。確かに大勢で取り組めば、重い物も運べますし、広い田んぼもあっという間に植え終わります。協力することで個人の負担が減り、作業効率が飛躍的に上がるという実体験が、この言葉の前半を支えています。

一方、後半の「旨い物は小勢」という部分には、人間の本音が垣間見えます。美味しいものを大勢で分ければ、一人あたりの取り分は少なくなってしまう。これは物質的な損得勘定だけでなく、ご馳走を味わう喜びや満足感も含めた実感だったのでしょう。

この二つを並べることで、仕事と報酬、協力と利益という人間社会の根本的な矛盾を、ユーモアを交えて表現しているのです。働くときは助け合いが必要だけれど、得をするときは人数が少ない方がいい。そんな人間の正直な気持ちを、庶民の知恵として言葉にしたものと考えられています。

使用例

  • 文化祭の準備は多勢旨い物は小勢で、みんなで協力して作業したけど打ち上げのピザは少人数の方が良かったかもね
  • 引っ越しの手伝いは仕事は多勢旨い物は小勢だから大勢呼んだけど、お礼のケーキは人数分用意するのが大変だった

普遍的知恵

このことわざが語り継がれてきた理由は、人間の心に潜む二つの相反する欲求を、見事に言い当てているからでしょう。

私たちは社会的な生き物です。困難に直面したとき、一人では成し遂げられないことも、仲間と力を合わせれば乗り越えられる。その喜びと安心感を、人類は太古の昔から知っていました。狩りも、農作業も、家を建てることも、すべて協力なしには成り立ちません。だからこそ「仕事は多勢」という前半部分は、人間社会の基本原理を表しているのです。

しかし同時に、私たちは個人でもあります。自分の利益を守りたい、できるだけ多くの報酬を得たいという欲求も、また人間の本質です。これは恥ずべきことではなく、生存本能に根ざした自然な感情です。だからこそ「旨い物は小勢」という後半部分は、誰もが心の奥底で感じている正直な気持ちを代弁しているのです。

このことわざの深い知恵は、この二つの相反する真実を、どちらも否定せずに並べて見せたことにあります。協力も必要、個人の利益も大切。その両方を認めることで、人間関係の複雑さと、社会生活のバランスの難しさを教えてくれるのです。完璧な人間などいない、矛盾を抱えながら生きるのが人間だという、深い人間理解がここにはあります。

AIが聞いたら

仕事と食事という日常行為を、エネルギーの流れで見ると驚くべき非対称性が浮かび上がる。

熱力学第二法則によれば、秩序ある状態を維持するには常にエネルギーを投入し続けなければならない。放っておけば部屋は散らかり、建物は朽ち、組織は乱れる。これがエントロピー増大の法則だ。仕事とは、まさにこの自然な流れに逆らう行為である。プロジェクトを進める、品質を保つ、顧客満足を維持する。どれも「乱れようとする状態」を「整った状態」に押しとどめる作業だ。だから多くの人手が必要になる。10人でやっと維持できる秩序を、2人では到底支えられない。

一方、美味しいものを食べる行為は、すでに料理人が作り上げた「低エントロピー状態」を受け取るだけだ。つまり、誰かが投入したエネルギーの結果を享受する側にいる。この場合、人数が増えると一人当たりの取り分が減り、満足度は下がる。少人数の方が、投入されたエネルギーを効率よく享受できる。

このことわざは、エネルギーを投入する側と享受する側では、最適な人数が真逆になるという宇宙の原理を、経験則として言い当てている。秩序の創造にはコストがかかるが、その果実は分散すると価値が薄まる。実に物理学的な知恵だ。

現代人に教えること

このことわざが現代の私たちに教えてくれるのは、人間関係における正直さと柔軟さの大切さです。

あなたが何かプロジェクトを始めるとき、困難な作業には積極的に仲間を集めましょう。一人で抱え込まず、協力を求めることは弱さではなく、賢明さの証です。多くの手が集まれば、不可能に思えた目標も達成できます。

同時に、利益や成果を分配するときには、貢献度に応じた公平さを意識することも大切です。全員が同じように働いたわけではないかもしれません。このことわざは、そうした現実を見据えた上で、どうバランスを取るかを考えさせてくれます。

そして何より、このことわざは私たちに自分の心に正直になることを許してくれます。協力したいけれど得もしたい、助け合いたいけれど損はしたくない。そんな矛盾した気持ちを持つことは、人間として当たり前なのです。その正直な気持ちを認めた上で、どう行動するかを選択する。それが成熟した大人の知恵なのです。完璧な聖人を目指すのではなく、欲も弱さも持った人間として、それでも協力し合える関係を築いていく。それがこのことわざの温かいメッセージです。

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