算用十八、手六十の意味・由来・使い方|日本のことわざ解説

ことわざ

算用十八、手六十の読み方

さんようじゅうはち、てろくじゅう

算用十八、手六十の意味

このことわざは、算盤などの計算技術は十八歳という若い時期に習得できるが、職人の手仕事の技は六十歳になってようやく本物になるという、技能習得の時間差を教えています。

計算のような論理的な技術は、理屈を理解し反復練習すれば比較的短期間で身につけることができます。若い頭脳は柔軟で記憶力も優れているため、むしろ若いうちの方が有利とも言えるでしょう。

しかし、職人の手仕事は全く異なります。木の癖を読む感覚、道具を扱う微妙な力加減、素材の状態を見極める経験。こうした技は、長年の積み重ねによってのみ体得できるものです。頭で理解することと、体が自然に動くこととの間には、大きな隔たりがあるのです。

このことわざは、技能や仕事の種類によって習得に必要な時間が大きく異なることを示すとともに、若さの利点と経験の価値、それぞれを認める教えとなっています。焦らず、その道に応じた時間をかけることの大切さを伝えているのです。

由来・語源

このことわざの由来について、明確な文献上の記録は残されていないようですが、言葉の構成から興味深い背景が見えてきます。

「算用十八」の「算用」とは、算盤を使った計算のことを指しています。江戸時代、商人の子どもたちは寺子屋で読み書きとともに算盤を学びました。数字の計算は論理的な思考と反復練習によって習得できるため、十代の若者でも十分に上達することができたのです。実際、十八歳ともなれば、算盤の技術は一人前と認められる年齢でした。

一方「手六十」の「手」とは、職人の手仕事、つまり技術や技能を意味しています。大工、左官、鍛冶、陶工など、日本の伝統的な職人の世界では、一人前になるまでに長い年月を要しました。木材の性質を見極める目、鉄を打つ力加減、土の感触を指先で読み取る感覚。こうした技は、頭で理解するだけでは身につきません。何十年もの経験を重ね、失敗を繰り返し、ようやく六十歳になって本当の技が完成すると考えられていたのです。

この対比は、江戸時代の職人社会における深い洞察を示しています。知識と経験、若さと熟練、それぞれに価値がある時期があるという、日本人の職業観が凝縮された言葉と言えるでしょう。

使用例

  • 彼は若いのに経理の仕事が完璧だが、算用十八、手六十というから、うちの親方の大工仕事にはまだまだ及ばないな
  • プログラミングはすぐ覚えられたけど、料理の腕前は算用十八、手六十で、母の味にはほど遠い

普遍的知恵

「算用十八、手六十」ということわざには、人間の成長と習熟についての深い洞察が込められています。なぜこの教えが長く語り継がれてきたのか。それは、私たち人間が常に「早く上達したい」という焦りと、「本物の技には時間がかかる」という現実の間で葛藤してきたからではないでしょうか。

若い頃、私たちは自分の可能性を信じ、何でもすぐにできるようになりたいと願います。実際、論理的な知識や計算のような技術は、若い柔軟な頭脳で短期間に習得できます。この成功体験が、すべてを同じように考えてしまう落とし穴となるのです。

しかし人生には、時間をかけなければ決して到達できない領域があります。体に染み込んだ感覚、経験から生まれる直感、失敗を重ねて得た知恵。これらは頭で理解するだけでは身につきません。指先が覚え、体が記憶し、心が理解する。そこに至るまでには、どうしても長い年月が必要なのです。

先人たちは、この二つの異なる成長曲線を見抜いていました。若さには若さの強みがあり、年齢には年齢の深みがある。どちらが優れているかではなく、それぞれに適した時期と価値があるという、人間理解の深さ。この知恵こそが、時代を超えて受け継がれてきた理由なのでしょう。

AIが聞いたら

人間の脳が一度に計画できる選択肢の数と、実際に体を動かしたときに生まれる可能性の数には、驚くほど大きな差があります。認知科学では、人間の作業記憶は同時に5から9個程度の情報しか保持できないことが分かっています。つまり、頭の中で「ああしよう、こうしよう」と考えられるパターンは、実はかなり限られているのです。

ところが実際に手を動かし始めると、状況は一変します。体は環境からリアルタイムで情報を受け取り、それに反応します。たとえば将棋を指すとき、頭の中では数手先までしか読めなくても、実際に駒を持つと盤面の微妙な変化が目に入り、触覚からの情報も加わって、予想外の手が次々と浮かんできます。これは環境との相互作用が新しい情報を生み出すからです。

このことわざの数字の比率、18対60は約1対3です。この非対称性は、思考が直列処理であるのに対し、実行は並列処理だという脳の特性を表しています。計画段階では一つずつ順番に考えるしかありませんが、実行段階では視覚、触覚、バランス感覚など複数のセンサーが同時に働き、それぞれが独立して判断材料を提供します。つまり人間は、考えるより先に動いた方が、はるかに多くの可能性にアクセスできる生き物なのです。

現代人に教えること

このことわざが現代のあなたに教えてくれるのは、「すべてを同じ速度で習得しようとしなくていい」という、心を軽くする真実です。

現代社会は即効性を求めます。短期間で結果を出すこと、若くして成功することが称賛されます。しかし、本当に価値のある技能や深い理解には、どうしても時間がかかるものがあるのです。それは決してあなたの能力不足ではありません。

プログラミングやデータ分析のような論理的スキルは、集中して学べば比較的早く身につくでしょう。でも、人の心を動かす文章を書く力、チームをまとめるリーダーシップ、顧客の本当のニーズを察する感性。こうした能力は、多くの経験と失敗を重ねて、ゆっくりと育っていくものです。

大切なのは、自分が今取り組んでいることが、どちらのタイプの学びなのかを見極めることです。早く習得できるものは効率的に学び、時間がかかるものには焦らず向き合う。その区別ができれば、無用な焦りから解放されます。あなたの人生には、今すぐ花開くものと、何年もかけて実を結ぶものが、どちらも必要なのですから。

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