五本の指で切るにも切られぬの意味・由来・使い方｜日本のことわざ解説

五本の指で切るにも切られぬの読み方

ごほんのゆびできるにもきられぬ

五本の指で切るにも切られぬの意味

「五本の指で切るにも切られぬ」とは、五本の指のように互いに切り離すことができない深い関係、つまり非常に親密な仲を表すことわざです。

このことわざは、家族や親友など、長年の付き合いで培われた強い絆を持つ人々の関係を表現する際に使われます。単なる仲の良さではなく、互いの存在が不可欠で、どちらか一方が欠けると成り立たないような、運命共同体とも言える深い結びつきを意味しています。

五本の指という比喩を用いる理由は、その視覚的な分かりやすさにあります。手の指は常に一緒にあり、一本一本が独立していながらも、決して切り離すことができない関係です。この身近な例えによって、言葉にしにくい深い人間関係の本質を、誰もが直感的に理解できるのです。

現代でも、長年連れ添った夫婦や、苦楽を共にしてきた仲間の関係を表現する際に、この言葉は生きています。

由来・語源

このことわざの由来について、明確な文献上の記録は残されていないようですが、言葉の構成から興味深い考察ができます。

五本の指という表現に注目してみましょう。私たちの手には五本の指があり、それぞれが独立して動きながらも、決して切り離すことのできない一体の関係にあります。親指と人差し指、中指と薬指、どの指も互いに協力し合い、物をつかむ、書く、食べるといった動作を可能にしています。

この表現が生まれた背景には、日本人の身体観や人間関係の捉え方が反映されていると考えられます。手の指は、目に見える形で「切り離せない関係」を示す最も身近な例だったのでしょう。一本でも欠ければ不自由を感じ、すべてが揃ってこそ本来の機能を発揮できる。この自然な観察から、人と人との深い絆を表現する言葉として定着していったと推測されます。

また、「切るにも切られぬ」という表現には、単なる親密さを超えた、運命的な結びつきの強さが込められています。たとえ切ろうとしても切れない、それほどまでに深く結ばれた関係を、五本の指という具体的なイメージで表現したところに、このことわざの巧みさがあると言えるでしょう。

使用例

• 幼なじみの彼とは五本の指で切るにも切られぬ仲だから、何でも相談できるんだ
• あの二人は五本の指で切るにも切られぬ関係で、一緒に事業を立ち上げてから30年になる

普遍的知恵

「五本の指で切るにも切られぬ」ということわざが語るのは、人間にとって切り離せない絆の尊さという普遍的な真理です。

人は一人では生きていけない存在です。どれほど独立心が強い人でも、心の奥底では誰かとの深いつながりを求めています。このことわざが長く語り継がれてきたのは、人間のこの根源的な欲求を見事に言い当てているからでしょう。

興味深いのは、このことわざが「切ろうとしても切れない」という表現を使っている点です。人間関係には時に困難や葛藤が伴います。意見の対立、誤解、傷つけ合うこともあるでしょう。それでもなお切れない絆があるという事実を、先人たちは深く理解していたのです。

五本の指という比喩も示唆に富んでいます。指はそれぞれ長さも形も違い、役割も異なります。しかし、その違いこそが手全体の機能を豊かにしているのです。人間関係も同じです。完全に同じ二人などいません。違いがあるからこそ、互いに補い合い、支え合える関係が生まれるのです。

このことわざは、表面的な付き合いが増えがちな現代において、真に深い人間関係とは何かを問いかけ続けています。

AIが聞いたら

五本の指を輪にして作る形は、トポロジーの世界では「ホモトピー同値」という概念で説明できます。つまり、指を曲げたり伸ばしたりしても、切断しない限り「穴が一つある構造」という本質は変わらないのです。

この構造の面白さは、指の長さが変わっても、太さが変わっても、どんなに歪んでも、数学的には「同じもの」として扱われる点にあります。トポロジーでは、コーヒーカップとドーナツは同じ形です。どちらも穴が一つだけあるからです。五本の指が作る輪も同じで、親指が短かろうが小指が曲がっていようが、閉じている限り位相的には不変なのです。

ここから導かれる洞察は、人間関係における「構造の強さ」は見た目の距離や形では測れないということです。家族が物理的に離れていても、喧嘩して一時的に関係が歪んでも、つながりという構造自体が維持されていれば、その本質的な強度は変わりません。逆に言えば、一度でも「切断」が起きると、トポロジー的には全く別の構造になってしまいます。

数学では、この連結性を「基本群」という不変量で表現します。切れていない輪の基本群は整数Zですが、一箇所でも切れると自明な群になる。この劇的な変化こそ、このことわざが伝える「切れない強さ」の数学的証明なのです。

現代人に教えること

このことわざが現代の私たちに教えてくれるのは、本当に大切な人との関係を見極め、育てていくことの重要性です。

SNSで何百人とつながり、表面的な交流が増える現代社会だからこそ、五本の指のような深い絆を持つ人が何人いるか、自分自身に問いかけてみる価値があります。すべての人と深い関係を築く必要はありません。むしろ、本当に大切な数人との関係に、時間とエネルギーを注ぐことが大切なのです。

そして、このことわざは関係の維持についても教えてくれます。五本の指が切り離せないのは、常に一緒にあり、互いに支え合っているからです。大切な人との関係も同じです。日々の小さな気遣い、言葉のやり取り、共に過ごす時間が、切れない絆を作っていきます。

あなたにとって五本の指のような存在は誰でしょうか。その人との関係を当たり前と思わず、大切に育てていく。そんな意識を持つことで、人生はより豊かで温かいものになっていくはずです。深い絆は、人生最大の財産なのですから。