一も取らず二も取らずの意味・由来・使い方|日本のことわざ解説

ことわざ

一も取らず二も取らずの読み方

いちもとらずにもとらず

一も取らず二も取らずの意味

「一も取らず二も取らず」とは、欲張って複数のものを同時に手に入れようとした結果、どれも得られずに終わってしまうことを意味します。

このことわざは、一つのことに集中せず、あれもこれもと手を広げすぎた時に使われます。たとえば、二つの仕事のチャンスがあって、どちらも逃したくないと両方に良い顔をしていたら、結局どちらからも選ばれなかった。あるいは、複数の目標を同時に追いかけて、力が分散してしまい、どれも中途半端に終わってしまった。そんな場面で用いられる表現です。

現代社会では選択肢が多く、あれもこれもと欲しくなる誘惑に満ちています。しかし、このことわざは、欲張りすぎることの危険性を警告しています。一つに絞って確実に手に入れる方が、結果的には賢明だという教えが込められているのです。

由来・語源

このことわざの由来について、明確な文献上の記録は残されていないようですが、言葉の構成から興味深い考察ができます。

「一も取らず二も取らず」という表現は、数字の「一」と「二」を対比的に用いることで、複数の選択肢を同時に追い求める様子を表現しています。日本語には古くから「一も二もなく」という慣用句があり、数字を使って物事の状態を表す伝統がありました。

この表現が生まれた背景には、おそらく商取引や日常生活での具体的な経験があったと考えられます。市場で二つの品物を同時に手に入れようとして、結局どちらも逃してしまった経験。あるいは、二人の相手と同時に交渉を進めようとして、両方から信頼を失ってしまった場面。そうした実体験から、この教訓が生まれたのではないでしょうか。

「取る」という動詞の選択も示唆的です。「得る」や「手に入れる」ではなく「取る」という直接的な表現を使うことで、能動的に何かを掴もうとする人間の欲望が浮き彫りになります。しかし、その積極性が裏目に出て、結果として何も手に残らない。この皮肉な結末を、シンプルな数字の対比で表現したところに、日本語の言葉としての洗練があると言えるでしょう。

使用例

  • 就職活動で複数の企業に曖昧な返事をしていたら、一も取らず二も取らずで全部断られてしまった
  • 二つの習い事を同時に始めたけれど、一も取らず二も取らずでどちらも身につかなかった

普遍的知恵

「一も取らず二も取らず」ということわざが語り継がれてきたのは、人間の欲望という普遍的な性質を見事に捉えているからでしょう。

人間には「もっと欲しい」という本能があります。一つ手に入れても、もう一つも欲しくなる。目の前に複数の魅力的な選択肢があれば、全部手に入れたいと思ってしまう。これは時代が変わっても、文化が違っても変わらない人間の本質です。

しかし、先人たちは経験から学んでいました。欲張りすぎることの危険性を。人間の能力や時間、エネルギーには限りがあります。あれもこれもと手を伸ばせば、力は分散し、集中力は散漫になります。そして最も皮肉なのは、全てを手に入れようとした結果、何一つ手に入らないという結末です。

このことわざには、人間の欲望に対する深い洞察があります。欲望そのものを否定しているのではありません。むしろ、欲望があるからこそ、選択と集中の重要性を説いているのです。何かを得るためには、何かを諦める勇気が必要だという真理。これは、物質的な豊かさの中で生きる現代人にこそ、響く知恵なのかもしれません。

AIが聞いたら

二つの選択肢AとBがあって、Aを選べば利益10、Bを選べば利益8が得られるとします。普通に考えれば、最悪でもBを選んで8は手に入るはずです。ところが決断を先延ばしにすると、時間経過とともに両方の価値が下がっていきます。1日待てばAは9に、Bは7に。さらに待てば8と6に。このとき恐ろしいのは、損失が単純な引き算ではなく掛け算的に増えることです。

ゲーム理論では、どんな相手の行動に対しても常に最善となる選択を「支配戦略」と呼びます。しかしこのことわざが示すのは、迷っている間に支配戦略そのものが消滅する状況です。つまり当初はAという明確な最善手があったのに、決断を遅らせることで「どちらを選んでも損」という状態に変質してしまうのです。

さらに興味深いのは機会費用の二重損失です。Aを選ばなかったことでBとの差額2を失い、同時にBも選ばなかったことでその8も失う。普通の機会費用なら片方だけの損失ですが、優柔不断は両方を同時に失わせます。行動経済学の研究では、人は選択肢が増えるほど決断できなくなり、結果的に何も選ばない確率が最大40パーセント上昇するというデータもあります。迷うこと自体が、第三の最悪な選択肢として機能してしまうわけです。

現代人に教えること

このことわざが現代人に教えてくれるのは、「選ぶ勇気」の大切さです。

現代社会は選択肢に溢れています。キャリア、趣味、人間関係、学び。すべてが魅力的に見え、すべてを手に入れたくなります。SNSを見れば、誰かが何かを楽しんでいる姿が目に入り、自分も同じように全部経験したいと思ってしまいます。

でも、あなたの時間とエネルギーは無限ではありません。本当に大切なものは何か。本当に実現したいことは何か。それを見極めて、一つに集中する勇気を持つことが、実は最も確実な成功への道なのです。

何かを選ぶということは、何かを手放すということでもあります。それは寂しいことかもしれません。でも、一つのことに全力を注ぐからこそ、深い満足感や達成感を得られるのです。

今、あなたの前にいくつもの選択肢があるなら、立ち止まって考えてみてください。本当に大切なものは何か。そして、それを選ぶ勇気を持ってください。一つを確実に手に入れることの方が、すべてを失うよりもずっと価値があるのですから。

コメント

世界のことわざ・名言・格言 | Sayingful
Privacy Overview

This website uses cookies so that we can provide you with the best user experience possible. Cookie information is stored in your browser and performs functions such as recognising you when you return to our website and helping our team to understand which sections of the website you find most interesting and useful.