一難去ってまた一難の意味・由来・使い方|日本のことわざ解説

ことわざ

一難去ってまた一難の読み方

いちなんさってまたいちなん

一難去ってまた一難の意味

「一難去ってまた一難」は、一つの困難が解決してもすぐに次の困難が現れるという意味です。ようやく問題を乗り越えてほっとする間もなく、新たなトラブルや課題に直面する状況を表現しています。

このことわざは、人生の厳しさや予測不可能性を率直に認める言葉として使われます。仕事でトラブルを解決したと思ったら別の問題が発生した時、病気が治ったと思ったら今度は別の体調不良に見舞われた時など、困難が連続する状況で用いられます。

現代では、ストレスの多い社会生活の中で、この表現に共感する人が多いでしょう。ただし、このことわざは単に嘆きを表すだけでなく、「困難は続くものだ」という覚悟を持つことの大切さも示唆しています。次々と訪れる試練に対して、驚くのではなく、それが人生の常態であると受け入れる心構えを促す言葉でもあるのです。

由来・語源

このことわざの由来について、明確な文献上の初出は特定されていませんが、言葉の構成から考えると、仏教用語の「難」という概念が深く関わっていると考えられています。仏教では人生における苦しみや困難を「難」と表現し、人間が生きる上で避けられない試練として捉えてきました。

「一難去って」の「去る」という表現は、困難が通り過ぎていく様子を表しています。しかし、その後に続く「また一難」という言葉には、人生の本質的な真理が込められています。つまり、困難は一度解決すれば終わりではなく、次々と訪れるものだという認識です。

この表現が広く使われるようになった背景には、日本人が長い歴史の中で経験してきた自然災害や社会的困難があると推測されます。地震、台風、洪水といった自然災害が繰り返し訪れる日本では、一つの災難を乗り越えても安心できない状況が続いてきました。こうした経験が、人々の生活実感として言葉に結晶化したのではないでしょうか。

江戸時代の文献にもこの表現に近い言い回しが見られることから、少なくとも数百年前には庶民の間で使われていたと考えられています。人生の厳しさを率直に表現したこのことわざは、時代を超えて共感を呼び続けているのです。

使用例

  • やっと引っ越しが終わったと思ったら今度は家電が壊れて、まさに一難去ってまた一難だ
  • 風邪が治ったと思ったら今度は腰を痛めて、一難去ってまた一難とはこのことだね

普遍的知恵

「一難去ってまた一難」ということわざが語り継がれてきた理由は、人生の本質的な構造を見事に言い当てているからです。私たちは心のどこかで、一つの問題を解決すれば平穏な日々が訪れると期待してしまいます。しかし現実は、生きている限り新たな課題が次々と現れ続けるのです。

この真理を先人たちは見抜いていました。人生とは、困難のない状態を目指す旅ではなく、困難と共に歩む旅なのだと。若い頃は健康の悩み、働き盛りには仕事や家族の問題、年を重ねれば老いや別れの苦しみ。人生の段階が変わっても、困難の種類が変わるだけで、困難そのものは決してなくなりません。

しかし、このことわざには深い慰めも含まれています。それは「あなただけではない」というメッセージです。困難が続くのは、あなたが不運だからでも、能力が足りないからでもありません。それは人間として生きることの本質なのです。

さらに、このことわざは私たちに大切な視点を与えてくれます。それは、困難のない状態を幸せの条件にしてはいけないということです。困難が続く中でも、その合間に感じる小さな安らぎや喜びを大切にする。そうした心の持ち方こそが、人生を生き抜く知恵なのではないでしょうか。

AIが聞いたら

人間の脳は「悪いことが起きた後は良いことが来る確率が高まる」と錯覚しがちです。これをギャンブラーの誤謬と呼びます。コインを5回投げて全部表が出たら、次は裏が出やすいと感じる、あの感覚です。でも実際には、コインに記憶はないので毎回確率は50パーセントのまま。難が去った後も、次の難が来る確率は変わらないはずです。

ところが現実では、このことわざ通り「一難去ってまた一難」が本当に起きやすい。なぜか。それは一つ目の難が、二つ目の難の確率を引き上げるからです。たとえば病気で入院すれば、運動不足で別の病気リスクが上がります。会社が経営難になれば、優秀な社員が辞めて次の危機を招きます。つまり独立した事象ではなく、条件付き確率の連鎖なのです。

さらに興味深いのは、統計学でいうクラスター現象です。ランダムに点を打っても、必ず密集する場所と疎らな場所ができます。交通事故の多発地帯や、同じ人に不運が重なるのは、実は統計的に自然な偏りです。完全にランダムな世界でも、不運は均等には分散されず、塊として現れる。人間はこれを「運が悪い」と感じますが、数学的には予測可能なパターンなのです。

このことわざは、確率の独立性という幻想と、現実の依存関係を見抜いた、驚くほど科学的な観察だったわけです。

現代人に教えること

このことわざが現代の私たちに教えてくれるのは、完璧な状態を求めすぎないことの大切さです。SNSを見れば、誰もが順風満帆な人生を送っているように見えます。しかし実際には、誰もが次々と訪れる困難と向き合っているのです。あなたの人生だけが特別に大変なわけではありません。

大切なのは、困難が続くことを前提に、自分なりのペース配分を見つけることです。一つの問題を解決したら、次の問題に備えて少し休む。完全に問題がなくなることを待つのではなく、問題と問題の合間にある穏やかな時間を意識的に味わう。そうした心の余裕が、長い人生を走り抜く持久力になります。

また、このことわざは「一難が去る」という事実も教えてくれています。困難は必ず過ぎ去ります。次の困難が来るとしても、今の困難は終わるのです。その繰り返しの中で、私たちは少しずつ強くなり、対応力を身につけていきます。困難の連続は、あなたを鍛える人生の訓練プログラムなのかもしれません。前を向いて、一つずつ乗り越えていきましょう。

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