名を捨てて実を取るの意味・由来・使い方|日本のことわざ解説

ことわざ

名を捨てて実を取るの読み方

なをすててじつをとる

名を捨てて実を取るの意味

「名を捨てて実を取る」は、名誉や体面、見栄といった外見的なものにこだわらず、実質的な利益や成果を優先して選択するという意味です。

このことわざは、人が判断に迷った時に、表面的な格好良さや世間体よりも、実際に自分にとって有益で価値のあるものを選ぶべきだという教えを表しています。「名」とは名声、評判、プライド、面子など目に見えない価値を指し、「実」とは具体的な利益、成果、実用性など実質的な価値を意味します。

このことわざを使う場面は、見栄を張るか実利を取るかの選択を迫られた時です。例えば、格式の高い仕事を続けるか、給料の良い仕事に転職するか悩んでいる時や、体面を保つために無理をするか、現実的な選択をするかで迷っている時などに使われます。現代でも、SNSでの見栄や世間体にとらわれがちな私たちにとって、本当に大切なものは何かを見極める指針として、とても意味深いことわざなのです。

由来・語源

「名を捨てて実を取る」の由来は、古代中国の思想に根ざしていると考えられています。この表現は、名誉や体面といった外見的なものよりも、実質的な利益や成果を重視するという考え方を表しており、実用主義的な価値観が反映されています。

日本では江戸時代の商人文化の中で特に重要視されました。当時の商人たちは、武士のような名誉や格式にこだわるよりも、実際の商売での成功や利益を追求することが生き残りの鍵でした。「名」は名声や評判、面子といった目に見えない価値を指し、「実」は具体的な利益や成果、実質的な価値を意味していました。

この考え方は、儒教的な名分論とは対照的な実利主義の表れでもありました。名分を重んじる武士階級に対して、商人階級は実際の成果を重視する文化を築いていったのです。また、茶道や芸術の世界でも、表面的な技巧よりも本質的な美しさや心を大切にするという文脈で使われることもありました。

このことわざが広く定着したのは、日本人の実用的で現実的な価値観と深く結びついているからでしょう。見栄や体面にとらわれず、本当に大切なものを見極める知恵として、長い間愛され続けてきたのです。

使用例

  • 転職先は給料は下がるけど、名を捨てて実を取るつもりで決めました
  • 見栄を張って高級車を買うより、名を捨てて実を取って中古の実用車にしよう

現代的解釈

現代社会では、「名を捨てて実を取る」という考え方がより複雑な意味を持つようになっています。SNS時代の今、多くの人が「いいね」の数やフォロワー数といった数値的な「名」に執着し、実質的な幸福や成長を見失いがちです。インフルエンサー文化や承認欲求の増大により、見た目の華やかさや話題性が重視される傾向が強まっています。

一方で、働き方改革の文脈では、このことわざが新しい解釈を得ています。大企業の肩書きや社会的地位よりも、ワークライフバランスや自分らしい生き方を選ぶ人が増えています。フリーランスや副業、地方移住など、従来の「名」にとらわれない選択をする人々が注目されているのです。

しかし、現代では「名」と「実」の境界線が曖昧になっている面もあります。個人ブランディングが重要視される時代において、「名」そのものが「実」になることもあるからです。YouTuberやブロガーにとって、知名度や評判は直接的な収入源となります。

また、情報過多の現代では、本当に価値のある「実」を見極めることが難しくなっています。表面的な情報に惑わされず、自分にとって本当に大切なものを選び取る判断力が、これまで以上に求められているのです。

AIが聞いたら

SNSで「バズった」投稿を見ると、多くの人が一瞬の注目を集めるために本来の目的を見失っている現象が見えてきます。例えば、本当は料理が好きで始めた料理アカウントが、いつの間にか「映える」見た目だけを追求し、味や栄養を軽視するようになる。これこそ「名を捨てて実を取る」の逆パターンです。

心理学の研究では、外発的動機(他者からの評価)に依存しすぎると、内発的動機(本来の興味や満足感)が低下する「アンダーマイニング効果」が確認されています。つまり、フォロワー数や「いいね」数を追いかけるほど、その活動から得られる本質的な喜びが減少してしまうのです。

興味深いのは、本当に影響力のある人ほど数字を気にしていないことです。YouTubeで最も成功している教育系チャンネルの多くは、再生数よりも「視聴者が実際に学べるか」を重視しています。彼らは意図的に「名」(短期的な注目)を捨て、「実」(長期的な価値提供)を取っているのです。

現代のSNS社会は承認欲求を刺激する仕組みに満ちていますが、このことわざは「目立つこと」と「価値あること」の違いを見極める重要性を、500年前から私たちに教えてくれているのです。

現代人に教えること

このことわざが現代の私たちに教えてくれるのは、本質を見極める目を持つことの大切さです。情報があふれる今の時代だからこそ、表面的な魅力に惑わされず、自分にとって本当に価値のあるものを選び取る判断力が必要なのです。

大切なのは、「名」を完全に否定することではありません。時には名誉や体面も必要ですが、それにとらわれすぎて大切なものを見失わないことです。キャリア選択でも、人間関係でも、お金の使い方でも、見栄や世間体よりも自分の心が本当に求めているものを優先する勇気を持ちましょう。

また、このことわざは「今すぐ結果が見えなくても、長期的に価値のあるものを選ぶ」という意味でも解釈できます。短期的な評価や注目よりも、じっくりと積み重ねていく学びや経験の方が、最終的には大きな財産になることが多いのです。

あなたが何かの選択に迷った時、このことわざを思い出してください。周りの目を気にしすぎず、自分の人生にとって本当に意味のある道を歩んでいけば、きっと心から満足できる結果が待っているはずです。

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