速やかならんと欲すれば則ち達せずの意味・由来・使い方|日本のことわざ解説

ことわざ

速やかならんと欲すれば則ち達せずの読み方

すみやかならんとほっすればすなわちたっせず

速やかならんと欲すれば則ち達せずの意味

このことわざは、急いで成果を求めすぎると、かえって目標を達成できないという意味です。何かを成し遂げようとするとき、焦りから手順を省いたり、準備を怠ったりすれば、結果として失敗を招き、目的地にたどり着けなくなってしまうという教えです。勉強でも仕事でも、早く結果を出したいという気持ちが強すぎると、基礎をおろそかにしたり、大切なプロセスを飛ばしたりしがちです。そうした拙速な行動は、一見効率的に見えても、実は遠回りになってしまうのです。このことわざを使うのは、焦って物事を進めようとしている人に対して、落ち着いて着実に進むことの大切さを伝えたいときです。現代社会では、すぐに結果を求められる場面が多いですが、本当に大切な目標ほど、じっくりと時間をかけて取り組む必要があるという真理を、このことわざは私たちに思い出させてくれます。

由来・語源

このことわざは、中国の古典『論語』の「子路篇」に由来すると考えられています。孔子の弟子である子夏が政治について尋ねた際、孔子が答えた言葉の一部として「無欲速、無見小利。欲速則不達、見小利則大事不成(速やかならんことを欲する無かれ、小利を見る無かれ。速やかならんことを欲すれば則ち達せず、小利を見れば則ち大事成らず)」という教えが記されています。

この言葉が生まれた背景には、古代中国の政治や人材育成の現場での経験があったと推測されます。孔子は多くの弟子たちを指導する中で、若者が成果を急ぐあまり失敗する姿を何度も目にしたのでしょう。特に政治の世界では、目先の成果を求めて拙速に事を進めれば、かえって民の信頼を失い、大きな目標から遠ざかってしまいます。

日本には儒教思想とともに伝わり、江戸時代には武士の教養として『論語』が広く学ばれました。この教えは、武芸の修練や学問の道においても当てはまる普遍的な真理として、日本人の心に深く根付いていったと考えられています。急がば回れという日本独自のことわざとも通じる精神性を持ち、日本文化の中で大切にされてきた知恵なのです。

使用例

  • 資格試験まで時間がないからと一夜漬けばかりしていたら、速やかならんと欲すれば則ち達せずで、結局不合格だった
  • 新規事業を早く軌道に乗せたいと焦って人員を増やしすぎたが、速やかならんと欲すれば則ち達せずというべきか、かえって混乱を招いてしまった

普遍的知恵

人間には、目標を早く達成したいという欲望が本能的に備わっています。待つことは苦痛であり、今すぐ結果が欲しいと願うのは、古今東西変わらぬ人間の性です。しかし、このことわざが二千年以上も語り継がれてきたのは、人類が何度も同じ失敗を繰り返してきた証でもあります。

焦りは判断力を鈍らせます。急ぐあまり、本来踏むべき手順を省略し、確認すべきことを見落とし、積み重ねるべき経験を飛ばしてしまう。そして気づいたときには、目標からさらに遠ざかっているのです。これは個人の人生においても、組織の運営においても、国家の政治においても同じです。

興味深いのは、このことわざが単なる「ゆっくり進め」という教えではないことです。速やかに達成したいという欲望そのものを否定しているのではなく、その欲望に支配されることの危険性を説いているのです。目標への情熱は大切です。しかし、その情熱が焦りに変わり、冷静さを失わせるとき、私たちは道を誤ります。

先人たちは、人間の心の中にある「早く結果を出したい」という衝動と、「着実に進むべきだ」という理性の葛藤を深く理解していました。そして、真の成功は後者を選ぶ勇気にあることを、このことわざに込めたのです。

AIが聞いたら

自動車のハンドル操作を想像してほしい。カーブで急激にハンドルを切ると、車は目標の車線を通り越して反対側に振れてしまう。そこで慌てて逆方向にハンドルを切ると、また行き過ぎる。この振動を繰り返すうちに、ゆっくりハンドルを操作した車にかえって追い抜かれてしまう。これが制御理論でいうオーバーシュート現象だ。

工学的に数式で示すと、システムの応答速度を上げるゲインを2倍にすると、オーバーシュートは4倍以上に増大する。つまり反応の強さと行き過ぎの量は比例関係ではなく、二乗以上の関係で悪化する。ロケットの姿勢制御でも同じ問題が起きる。急激に軌道修正しようとすると、燃料を無駄に消費した上に目標到達が遅れる。だからNASAの制御システムは、あえて反応をゆるやかにして最短時間での安定を実現している。

興味深いのは、最適制御理論が導き出した答えが「クリティカルダンピング」と呼ばれる状態だということだ。これは振動せずに最速で目標に到達する、数学的に証明された最適解だ。計算すると、人間が感じる「ちょっと遅いかな」くらいの速度が、実は物理的に最速なのだ。古代中国の思想家たちは、実験も数式もなしに、この工学的真理を直感で見抜いていたことになる。

現代人に教えること

このことわざが現代のあなたに教えてくれるのは、スピードが価値とされる時代だからこそ、立ち止まる勇気を持つことの大切さです。SNSでは誰かの成功が瞬時に目に入り、自分も早く結果を出さなければと焦ってしまいます。でも、本当に価値あるものは、時間をかけて育てるものです。

今日、あなたが取り組んでいることで、焦りを感じているものはありませんか。もしあるなら、一度深呼吸をして、自分が本当に大切にしたいものは何かを考えてみてください。資格取得でも、人間関係でも、キャリア形成でも、急いで手に入れたものは、急いで失われることも多いのです。

このことわざは、遅くあれと言っているのではありません。着実であれと言っているのです。一歩一歩を確実に踏みしめながら進むことで、あなたは本当の力を身につけていきます。その力は、急いで得た見せかけの成果とは比べものにならない、あなた自身の財産になります。焦らず、でも歩みを止めず、自分のペースで進んでいきましょう。

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