貧賤の交わり忘るべからずの意味・由来・使い方|日本のことわざ解説

ことわざ

貧賤の交わり忘るべからずの読み方

ひんせんのまじわりわするべからず

貧賤の交わり忘るべからずの意味

このことわざは、貧しく苦しい時代に自分を支えてくれた友人や仲間を、決して忘れてはならないという教えです。人は成功して地位や財産を得ると、つい過去の苦労を忘れ、かつての友人関係を軽んじてしまいがちです。しかし本当に大切なのは、自分に何もなかった時に手を差し伸べてくれた人々への感謝の心を持ち続けることだと説いています。

このことわざは、特に立身出世した人が、昔の友人を見下したり疎遠にしたりする態度を戒める場面で使われます。また、成功者自身が謙虚さを保つための自戒の言葉としても用いられます。真の友情とは利害関係ではなく、困難な時期に築かれた信頼関係にこそ価値があるという考え方が根底にあります。現代でも、人間関係の本質を見極める大切な指針として、多くの人に共感される言葉となっています。

由来・語源

このことわざは、中国の歴史書「後漢書」に記された実話に由来すると言われています。後漢の初代皇帝・光武帝(劉秀)が、まだ皇帝になる前の貧しい時代に親しくしていた友人、宋弘という人物との関係が元になっているという説が有力です。

劉秀が皇帝となった後、姉の湖陽公主が夫を亡くし、宋弘を気に入って再婚を望みました。光武帝は宋弘に「地位が上がれば友人を変え、富めば妻を替えるというが」と尋ねたところ、宋弘は「貧賤の交わりは忘るべからず、糟糠の妻は堂より下さず」と答えたとされています。これは「貧しい時の友人を忘れてはならず、苦労を共にした妻を見捨ててはならない」という意味でした。

この言葉の「貧賤」とは、貧しく身分が低い状態を指します。「交わり」は友人関係や人間関係を意味し、「忘るべからず」は忘れてはならないという強い戒めの表現です。成功して地位や財産を得た後も、困難な時期に支えてくれた人々への恩義を忘れないという、人としての基本的な道徳を説いたことわざとして、日本でも広く受け入れられてきました。

豆知識

このことわざと対になる言葉として「糟糠の妻は堂より下さず」があります。糟糠とは酒かすや米ぬかのことで、貧しい時代に粗末な食事で苦労を共にした妻という意味です。友人への義理と妻への誠実さを同時に説いた、宋弘の言葉の完全な形として伝えられています。

日本では江戸時代の教訓書や道徳の教材として広く使われ、武士階級だけでなく商人の間でも重視されました。特に商家では、奉公人時代に世話になった人々への恩を忘れず、成功後も謙虚であることが美徳とされていました。

使用例

  • 学生時代に励まし合った友人たちこそ、貧賤の交わり忘るべからずで、今でも大切にしている
  • 出世したからといって昔の仲間を軽んじるなんて、貧賤の交わり忘るべからずという言葉を知らないのか

普遍的知恵

人間は不思議なもので、成功すればするほど、過去の自分を忘れたくなる生き物なのかもしれません。貧しかった頃の記憶、惨めだった時期の思い出は、輝かしい現在の自分にとって都合の悪いものに感じられてしまうのです。そして同時に、その時代を知る人々の存在も、無意識のうちに遠ざけたくなってしまいます。

しかし、このことわざが何百年も語り継がれてきたのは、まさにその人間の弱さを見抜いているからでしょう。地位も財産もなかった時に、損得勘定抜きで支えてくれた友人こそが、本当の意味での友人です。成功してから近づいてくる人々とは、その関係の質が根本的に異なります。

人は誰しも、自分が強い時には周りが見えなくなります。でも本当の人間の価値は、弱い時にどう生きたか、そして強くなった時に弱かった頃の自分をどう扱うかで決まるのではないでしょうか。このことわざは、成功という甘い毒に侵されやすい人間の心に、いつの時代も警鐘を鳴らし続けています。感謝の心を失った瞬間から、人は本当の意味で貧しくなっていくのです。

AIが聞いたら

人は成功すると、自分と似た環境の人たちに囲まれるようになる。同じ年収層、同じ業界、同じ価値観の人々だ。ネットワーク理論では、これを「強い紐帯」と呼ぶ。つまり、頻繁に会い、深く関わる関係のことだ。ところがこの強い紐帯には落とし穴がある。みんなが似た情報しか持っていないため、新しい視点や機会が入ってこなくなるのだ。

社会学者グラノヴェッターは、むしろ「弱い紐帯」こそが価値を持つと発見した。たまにしか会わない知人や、異なる世界にいる友人のほうが、自分の知らない情報をもたらしてくれる。貧賤時代の友人はまさにこれに当たる。彼らは成功後の自分とは違う世界を生きているため、全く異なる情報ネットワークにアクセスできる。言い換えれば、成功者が陥りがちな「情報の偏り」を修正する装置として機能する。

さらに興味深いのは、構造的な穴という概念だ。これは、つながっていない集団同士を橋渡しする位置のことを指す。貧賤時代の友人を保つことで、あなたは成功者グループと庶民グループの両方にアクセスできる稀有な存在になれる。この橋渡し位置にいる人は、情報優位性を持ち、実際に転職や事業機会を得やすいという研究結果もある。道徳的な美談に見えて、実は最も合理的な戦略なのだ。

現代人に教えること

現代社会では、SNSのフォロワー数や名刺交換の数で人間関係を測りがちです。でも、このことわざが教えてくれるのは、人間関係の本当の価値は量ではなく質にあるということです。あなたが困っている時、何の見返りも期待せずに手を差し伸べてくれた人は、何人いるでしょうか。

キャリアを積み、収入が増え、社会的地位が上がっていく中で、私たちは新しい人間関係を築いていきます。それ自体は素晴らしいことです。でも同時に、過去の自分を知る人々との関係を大切にすることも忘れないでください。彼らはあなたの本質を知っている人たちです。

成功は人を変えます。でも、変わってはいけない部分もあるのです。それは感謝する心です。今のあなたがあるのは、決して一人の力だけではありません。苦しい時に支えてくれた人々への感謝を忘れない時、あなたは本当の意味で豊かな人生を歩んでいると言えるでしょう。時々、昔の友人に連絡を取ってみませんか。その一歩が、あなたの人生をより深いものにしてくれるはずです。

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